【社説】地方創生再起動 まず集権的発想を改めよ
この10年で地方創生のスローガンは色あせた。これまでと同じ手法で再起動しても、成果は期待できない。 石破茂首相は、今後10年間に取り組む地方創生の基本構想を策定する「新しい地方経済・生活環境創生本部」を内閣官房に設置した。内閣の最重要課題とあって、全閣僚が名を連ねる。 首相が初代担当相に就いた2014年以降、国は地方創生で思い描いた成果を上げられなかった。とりわけ人口の東京一極集中には歯止めがかからない状況が続く。 再起動するなら、失敗の原因や教訓を整理した上で本部を発足させ、新しい戦略に着手するのが当然だろう。 残念ながら、過去10年の総括は十分にできていないようだ。本部初会合で首相は「反省をきちんとしないと展望はない」と述べた程度で、具体的に語らなかった。 今後は有識者を交えて、新たな地方創生の「基本的考え方」を年内にまとめる。 初会合では5項目のポイントが示された。(1)安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生(2)東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散(3)付加価値創出型の新しい地方経済の創生-などだ。 これでは過去の延長線の印象しか持てない。地方創生全体の目標も曖昧である。 甚だ疑問なのは、新たな地方創生の目標や手段が決まらないうちに、地方に配る交付金を増やす方針が決まっていることだ。当初予算ベースで倍増するという。 しかも年内にまとめる経済対策に絡め、前倒しで支出すると首相は明言している。その対象は地場産業から医療、介護、交通、デジタル化などあらゆる分野が想定されているようだ。 10年前、地方創生の事業に数値目標を設定し、検証を強く求めたのは首相である。政策効果を検証できない支出が増えるなら「ばらまき」の批判は免れない。 地方創生の手段も従来と変わらない。今回もまた「好事例の横展開」を始めようとしている。ある地域のうまくいった取り組みを他地域に展開すれば、日本中が良くなるという考えだ。 ここに地方創生の限界を見る。国の価値観で地方を画一的に捉えるのは、まさに中央集権的な発想である。 評価される取り組みは、その地域に暮らす人々と風土の上に成り立つ。試行錯誤の末に実を結んだ事例もあるだろう。どこにでも簡単に移植できるわけではない。 地方の暮らしやなりわいの将来像は自治体や住民、事業者が主体的に考えることだ。地方自治を尊重する理念を地方創生に求めたい。 国が好事例の収集よりも力を入れるべきは、規制の見直しや財政支援をはじめ、地方が創意工夫を発揮しやすい環境をつくることである。国は国にしかできないことに徹すべきだ。
西日本新聞