高橋ヨシキが映画『哀れなるものたち』と『ダム・マネー ウォール街を狙え!』をレビュー!
日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 各映画賞で絶賛! エマ・ストーン主演のファンタジー作と、アメリカの個人投資家たちの逆襲を描いた実話の映画化! * * * 【写真】『ダム・マネー ウォール街を狙え!』のレビューにも注目! 『哀れなるものたち』 評点:★4点(5点満点) 澄んだ目に映る世界はいつだって驚きと興奮に満ちている きらびやかで美しく、ときにグロテスクな、上質な絵本のような寓話である。 主人公ベラは見た目こそ成人女性だが、とある事情でこの世に生を受けたばかりの赤子の精神を持ち合わせている。 彼女の目を通じた世界は驚きと興奮に満ちている一方、いわゆる「マナー」や「世間体」といった、人間社会の「お約束」はおしなべて不可解で無意味なものに映る。 そこにはきわめて本質的な問題提起がある。実際のところ、社会生活を送る上で重要とされているプロトコルのほとんどは不可解で無意味なものだからだ。「慎ましさ」や「上品さ」が、「自分の欲望に忠実に生きること」より上位の道徳規範とされることに、納得し得る理由など存在しないのである。 ベラの視点とその新鮮な認識を追体験することは、「社会」の「日常」に倦みきった精神へのカンフル剤として作用する。 さらに本作は女性にだけ「慎ましさ」や「上品さ」が要求される度合いが高いことについて鋭く指弾するものでもある。19世紀の英国が舞台になっているのはそれを強調するためだが、その不均衡はまったく過去の話ではない。 ファンタジックな画面の作り込みも楽しく、目にも精神にも刺激的な作品だ。 STORY:自ら命を絶った女性ベラは、天才外科医バクスターによって胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。「世界を自分の目で見たい」という欲望に駆られた彼女は、さすらいの弁護士ダンカンに誘われて旅に出る。 監督:ヨルゴス・ランティモス出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォーほか上映時間:144分 全国公開中 『ダム・マネー ウォール街を狙え!』 評点:★3.5点(5点満点) 一寸の「ゴミ投資家」にも五分の魂 証券会社が個人投資家のことを「ゴミ投資家」と呼ぶことはよく知られている。 彼らの「お客さん」は第一に機関投資家(法人の大口投資家)であり、個人でまともに相手をしてもらえるのは巨額を注ぎ込む富裕層だけだ。それ以外の個人投資家は彼らにとって「ゴミ」同然なのである。『ダム・マネー』は「ゴミのような個人が投資したカネ」のことを指す。 本作は2021年に起きた、ビデオゲームの小売りチェーン「GameStop」の株をめぐる「ゴミ投資家」対ヘッジファンドの戦いを描いた作品だが、そもそも「ヘッジファンド」とは何かといえば、端的に言って「どんな手を使っても損失を避けて(ヘッジして)利益を上げる」のを目的とした投資信託のことだ。 そして「GameStop」をめぐる攻防においても、ヘッジファンドは文字通りあらゆる手を使って「ゴミ投資家」を潰そうとし、個人投資家はネットの掲示板やYouTubeでの情報交換を通じてそれに対抗した。 結果は映画をご覧いただきたいが、ヘッジファンド界の超大物ケネス・グリフィンが自分の役を演じる俳優を脅してまで本作の製作をストップさせようとした、という事実が彼らの本質を如実に示しているともいえる。 STORY:会社員キースは、倒産間近とされていた会社「ゲームストップ社」の株に全財産を注ぎ込む。彼に共感した大勢の個人投資家が、同社株を買い始め21年初頭に株価は暴騰。同社の空売りで儲けるつもりだった大富豪たちは大損失を被る。 監督:クレイグ・ギレスピー出演:ポール・ダノ、ピート・デヴィッドソン、ヴィンセント・ドノフリオほか上映時間:105分 2月2日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開予定 ●高橋ヨシキ(たかはし・よしき) デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。 ・YouTubeチャンネル 『BLACKHOLE』 『高橋ヨシキのクレイジー・カルチャーTV』 ・Twitter 【@InfoYoshiki】 ・メルマガ 『高橋ヨシキのクレイジー・カルチャー・ガイド』