村上春樹作品、仏でアニメーション映画化:『めくらやなぎと眠る女』監督が語る「作家、日本、震災」
日本からのインスピレーション
脚本の執筆中、フォルデスは日本を訪れることを熱望した。物語の舞台でもある日本からのフィードバックを欲していたというのだ。実際に来日したフォルデスは、なんと新幹線の中で弁当を食べながら脚本を書き終えている。 「日本に行けば、自分の脚本と向き合いながら、新たなインスピレーションを得られるのではないかと考えました。毎日いろいろな日本の街を訪れ、それぞれの土地に浸ることで自分自身を忘れたかった。同時に、自問自答を繰り返すことで道筋を発見したいとも思ったのです」 日本から受けた刺激は、脚本だけでなくビジュアルやサウンドにも表れている。フォルデスは古典的な日本画のほか、日本で活躍する現代のアーティストを敬愛しており、劇中には葛飾北斎の春画を引用。オリジナル版のせりふは英語とフランス語だが、テレビや病院のアナウンスからは日本語もしばしば聞こえてくる。 「私はもともと作曲家なので、世界観に合うオリジナルの音を作るため、できるだけ音で遊びたい、さまざまな音や言葉をブレンドしたいと考えました。日本の音を取り入れるため、せりふや声のほかにも日本で作ったサウンドを使っています。映像のルックも、想像上の日本と、旅行中の写真に写っていたリアルな日本を融合させるようにして作りました」 なお、日本での劇場公開にあたっては日本語版を新たに制作。磯村勇斗や玄理、塚本晋也、古舘寛治らを声優として起用し、フォルデスの監修のもと、『淵に立つ』(16)などの映画監督・深田晃司が演出を務めた。 「この映画では、はじめに英語で俳優たちの演技を撮影し、それらに基づいてアニメーションを制作しました。フランス語版は素晴らしい役者たちが声優を担当しましたが、彼らには吹替の経験がなかったので、せりふはひとりずつ別々に録音しています。一方で日本語版は、ほとんどのシーンをリアルな会話劇のように全員で収録しました。全員で意見を交換し合いながら、深田監督ともお互いの演出技法を組み合わせて、とても魅力的な体験になりました」 この日本語版を、フォルデスは「自分が思い描いた通りのユニークな映画」だと豪語する。英語・フランス語によるオリジナル版だけでなく、新たなコラボレーションで誕生した日本語版『めくらやなぎと眠る女』。原作の短編小説とともに味わえば、フォルデスが読み取り、そして再創作した村上春樹の世界を、きっとより深く体験できるはずだ。