吉野家はなぜ、「カレー」と「から揚げ」の専門店を始めるのか?
バリューチェーンの共有で効率よく成長
吉野家HDの新業態開始の背景を、バリューチェーンの観点から見てみたい。 「価値連鎖」の意味を持つバリューチェーンとは、企業における各事業活動を、価値創造のための一連の流れとして捉える考え方だ。 企業の事業活動は、原材料調達から販売に至るまで多岐にわたり、それぞれの事業活動がきちんとその役割や機能を果たすことで価値を創造している。 吉野家HDは、特に「調達」の部分をグループ全体で共有することで、新業態の事業を効率よく成長させられる可能性がある。 例えば、牛丼チェーンで構築した仕入れルートや大量調達のノウハウを新業態にも適用することで、牛丼用の牛肉をカレーにも活用できるなど、コスト効率を高めることができる。 また、人材教育やマニュアル化をグループ企業全体で行うことで、オペレーションの効率化とサービス品質の均一化を実現できる。 スタッフの採用からトレーニングまでを一元化し、多様な業態でも同水準のサービスを提供できる体制を構築することができるのだ。
リスクを分散し、市場の変化に対する柔軟な対応が可能に
複数の業態を展開することで、リスク分散も可能だ。 外食産業は、消費者の嗜好の変化や競合他社の動向、経済状況など、さまざまな要因で市場環境が変化する。 新業態を行うことで特定の事業への依存から脱却し、各業態が相互に補完し合うことで、企業全体の安定性を高められる。 さらに、吉野家HDの新業態のから揚げやカレーは持ち帰りやすく、テークアウト需要の高まりにも対応している。 コロナ禍を経て定着した非接触型の消費行動に適応し、新たな顧客層の獲得や販売チャネルの拡大が期待できるのだ。
ブランドの多面性と競争優位性の確保
新業態への挑戦は、吉野家というブランドの多面性をアピールすることにもつながる。従来の「吉野家=牛丼」という固定観念を打破し、多彩なメニューを提供する総合外食企業としてのポジショニングを確立しようとしている。 また、多業態の展開により、競合他社との差別化を図り、市場での競争優位性を高めている。他社が模倣しづらい独自のビジネスモデルを構築し、市場シェアの拡大とブランド力の強化を目指している。