令和のネタを昭和のテレビが放送? アナクロ系YouTubeのリアルすぎるタイムスリップ映像
昭和のテレビ番組には独特な雰囲気がある。いまでもテレビを見ていると当時のニュース映像や、大御所タレントの若かりしころの映像などが流れるときなどがある。当時の映像は、ちょっとぼやけているような画質、丸っこい癖字のようなフォント、くぐもったような音質や、早口のリポーターなど、いわゆる「昭和っぽいよね」という雰囲気の映像になっている。 【写真】昭和の音楽番組に迷い込んだ丸山礼 あまりのリアルさに「本当にすごいな」 そんな昭和の映像を完全に再現し、さらに現代の要素をうまく絡めて人気を集めているのが、フィルムエストTVというYouTubeチャンネルだ。 ・昭和を知らないクリエイターが生み出す“昭和” フィルムエストTVの動画は、ただ昭和を模した映像というだけではない。今回は、そのいくつかのギミックについて紹介していきたいと思う。 まずチャンネルの企画・制作を担当しているのは、映像クリエイターのにしい氏だ。にしい氏は1994年生まれの30歳(2024年時点)。筆者と同じく平成ど真ん中世代で、もちろん昭和の時代を過ごしたわけではない。にしい氏は小説家の田辺青蛙氏のYouTubeチャンネルに出演した際、もともと古い映像が好きだったことを明かしている。リアルタイムで昭和を体験したわけではないが、だからこそ感じる「パラレルワールド感」「ワクワク」を共有したいという想いから、フィルムエストTVを立ち上げたと語っていた。 平成生まれの世代からすると、昭和のテレビ番組は現実の映像だと理解はしているものの、いまの時代にはない喋り方や風景も相まって、どこか別世界のようにも感じる。画面を通して見ることで余計にその奇妙さが増すのだ。おそらくこれから何世代か先の未来を生きる人たちは、令和のテレビ番組にも似たような奇妙さを感じるのだろう。 このようにフィルムエストTVの動画は、昭和生まれのクリエイターが実際に体験した「懐かしさ」から生まれたものではなく、昭和を知らないクリエイターだからこそ感じるワクワク感から生まれている作品なのだ。 ・ユーモア溢れる令和ネタ また、雰囲気は完璧に昭和でありながら令和のネタを取り入れているところも、動画を見やすくしているギミックのひとつだろう。たとえば2023年9月23日に投稿された「【創作】「ひき肉です」の挨拶考えたの30年前のリポーター説」という動画は、2023年大ブレイクを果たした中学生YouTubeグループ・ちょんまげ小僧の挨拶「ひき肉です」を、リポーターが披露するという内容になっている。 中継リポーターが突如「ひき肉です」を披露し、スタジオの男性アナウンサーと女性アナウンサーが戸惑うという流れなのだが、「なんやねんそれ」「変なことするからや」というアナウンサーの関西弁のトーンや、画質、テロップなどが昭和そのものクオリティとなっている。視聴者も、きっとこの時代に「ひき肉です」という挨拶が生まれたらこんな感じなんだろうなと、なんの違和感もなく思わせるほどのリアルさだ。 2022年5月22日に投稿された「タイムスリップがバレる瞬間(FULL)」は、3DCGフリーソフトBlenderの解説を行う男性が写しだされている。ソフト自体は現代のものだが、詰め寄るマスコミ、解説している男性の風貌、ブラウン管テレビなどが昭和であることを成立させている。最後にはユーモアたっぷりのオチが用意されているので、ぜひ最後まで見てみてほしい。 最近は、丸山礼や友近といったタレントをゲストに迎えた動画も投稿。現代のタレントが写ると昭和感が薄れてしまうのではないかと感じるかもしれないが、2人ともまったく違うアプローチで見事昭和の世界に没入している。このリアルさには視聴者からも「本当にすごいな」と驚きの声も集まっている。 『フェイクドキュメンタリー「Q」』や『イシナガキクエを探しています』などさまざまなモキュメンタリー作品が話題になるなか、本チャンネルもモキュメンタリーの要素も含みつつ、ひと味違った魅力を放っている。まだまだ可能性を秘めているYouTubeチャンネル・フィルムエスト。時代が交差する不思議な体験を手軽に楽しむことができるので、ぜひ視聴してみてほしい。
はるまきもえ