月光仮面を盛り上げた、けなげで薄幸な悪役たち 着ぐるみの中に意外な役者
映画界からまだまだ蔑視されていた小さな「電気紙芝居」のテレビで、安づくりの国産初のテレビヒーローが絶大な人気を博していた。この熱気にマスコミも注目しはじめて、撮影所の大部屋俳優だった大瀬康一氏も一躍時の人となった。だが、決してこのテレビ映画の草分けの現場は恵まれた条件ではなく、大瀬も不安いっぱいの日々であった。そんな現場には、大瀬同様、異色の人材がたくさん集まっていた。さらに大瀬氏の回想は続く。 ※「【連載】「月光仮面」誕生60年 ベンチャーが生んだヒーロー」第8回(全10回)。連載第6回~9回では、映画評論家・映画監督:樋口尚文さんによる俳優・大瀬康一さんのインタビューをお届けします。
マンモス・コングの着ぐるみの中には意外な人物
―― マンモス・コングは東宝特撮映画の怪獣のように洗練された上等な感じとはほど遠かったですが、『月光仮面』で唯一の巨大怪獣だったのでお茶の間の子どもたちは大喜びだったでしょうね。 大瀬:実はあの着ぐるみには意外な人が入ってたんだよね。あれは高木新平さんというサイレント期の映画スターが演ってたんですよ。着ぐるみを作ったのも高木さんじゃなかったかな。 ―― 高木新平さんといえばサイレント期のマキノ省三の映画などで主演し、戦後もバイプレーヤーとして活躍されていましたね。 大瀬:それに高木さんって、黒澤明の「七人の侍」の農村を襲う野武士軍団のボスも演っていたんだよね。 ―― 『月光仮面』最大の悪役のマンモス・コングと、「七人の侍」最大の悪役の野武士の頭目が同一人物だったとは! 大瀬:面白いよねえ。でもこの「マンモス・コング」篇は、「月光仮面」のなかでもけっこう大がかりで、朝霞の自衛隊駐屯地に行って撮影しました。迫撃砲を撃ったり、装甲車が走ってきたりというカットを実際に自衛隊が全面協力でやってくれました。当時は警視庁だって、中の廊下や取り調べ室みたいなところまで使わせてくれたんですよ。まあおおらかな時代だけど、視聴率がよくて話題になっている「月光仮面」は正義の味方なんだから、先方も協力しやすかったのかもしれない。