シリーズ『ストーリーズ』「海の男」の目に涙…再び、漁へ!輪島の漁師の11カ月に密着
再起をかけて舳倉島へ!実家の前で思わず、涙…
船は無事だったものの、輪島港は海底が隆起し、漁に出ることができなくなった。さらに東野さんには、もう1つ心配事があった。 東野さん: 舳倉島の家も、もうどうなっとるかも全然分からん。 舳倉島とは、輪島市から北に約50キロ先にある日本海に浮かぶ離島だ。豊かな漁場に恵まれているため、夏場は海を渡り多くの漁師や海女が暮らした。しかし、元日の地震で舳倉島も被災。港も大きな被害を受けたため、島民も島へ渡ることができない状況が続いていた。東野さんたち舳倉島の出身者が、ようやく島へ渡ることが出来たのは4月下旬だった。 東野さん: 島民がみんなで渡るっていうのは今回が初めて。正月ぶりだし、皆さん舳倉島に行けるってテンション上がるわな。1番の希望ですね、舳倉島の家はね。 本土と島を繋ぐ定期船は地震以降、運休しているため自分たちで船を出して島へ向かった。 船から降りた東野さんが「ひどいな」とつぶやいた。地震で港はすっかり変わってしまっていた。 東野さん: ゴミだらけ… 舳倉島は、最も高い地点で12メートルと標高が高くない。島は津波の被害も受けたようで、陸の上も津波で打ち上げられたであろう瓦礫や網などのごみが散乱。その間を縫うように歩き、両親と共に実家を目指した。 東野さん: あれ、そう。実家 津波の被害を受け、大きく損壊した実家。東野さんの目に思わず涙があふれた。 東野さん: 情けねぇな…全滅やなこれ。悔しいなぁ… 実家は倒壊を免れたが、津波で床は泥だらけ。家財道具も波にさらわれ、とても住める状態ではなかった。一番の希望だった実家の姿に言葉を失った。 東野さん: この状況どうする? 母の直美さんが「洗濯機、なくなっている」とつぶやいた。洗濯機は津波で家から押し流され、草むらの中に転がっていた。 東野さん: 大変ですよ、どうしよう。最後ここが希望だった。ここさえ生きていれば島に移住できるかなと思ったけれど、この家もこんな状態じゃ…。やっぱり戻りたいですね。舳倉島でも輪島でも。とにかく帰りたい。どうなるんやろ本当に… 地震と津波の被害は島全体に渡っていた。国は地域住民に島の片づけを依頼し、漁師や海女をはじめとする人々がその役割を担った。 7月末、東野さんは自分の船で舳倉島に渡った。島の復旧と片づけは着々と進み、水道も復旧。東野さんが蛇口をひねると、勢いよく水が流れ出した。 東野さん: おぉ!水最高!水出るってスゴイ! 東野さんは、いつかまた舳倉島の実家に住むことができるよう、少しずつ片付けを進めていると言う。しかし、希望を抱いたその帰り道…船のエンジンが故障してしまった。 東野さん: エンジンは潰れるわ、家は潰れるわ、どうする?崩壊やわ… 船がなければ、舳倉島の実家に帰ることも、もちろん、漁に出ることもできない。この時、震災から既に半年以上が経っていた。