世界の宝復旧願う 千枚田に爪痕 能登地震1カ月
「千枚田はどうなっているのでしょうか」。能登半島地震を受け、石川県輪島市にある「白米(しろよね)千枚田」を心配する声が、複数の読者から本紙「農家の特報班」に寄せられた。日本海に向かって約4ヘクタールの斜面に1004枚の棚田が連なり、日本で初めて世界農業遺産に認定された「能登の里山里海」の象徴的な存在だ。 同市では最大で震度7を記録した。発生から1カ月、記者が千枚田を訪ねると、農地や畦畔(けいはん)の崩落はないものの、無数の亀裂を確認できた。維持・管理を担う白米千枚田愛耕会によると、行政による被害調査は進んでいない。だが、千枚田までの用水路が土砂崩れで3カ所埋まり、今年の作付けは難しい状況だという。 地震後、千枚田への道路は陥没し、周辺地域は孤立化した。応急工事で同市中心部から車両が通れるようになったのは、1月下旬。地域のシンボルである千枚田の現状を確認しようと、地元住民らも次々と訪れている。
「輪島の人の心のよりどころ」
「思った以上の被害だった」。高校生まで同市で暮らしていた豊田公美子さん(49)が亀裂を痛ましげに見つめていた。被災した両親のため、大阪府から帰省。生活がやや落ち着き、頭によぎったのが千枚田だった。「元に戻ってほしい」。車窓から眺める風景が子どもの頃から大好きで、傷ついた姿を見るのはつらいという。 千枚田の地権者の一人だという金沢市の70代の男性も、心配して戻ってきていた。「千枚田は輪島の人の心のよりどころ。ただの農地じゃない」。千枚田は能登の観光資源でもあり、2022年には45万人が訪れた。同市の40代の会社員男性は「(千枚田が復興しなければ)輪島に足を運ぶ理由が一つなくなり、過疎に進んでいくのが怖い」と話した。
「応援」全国から
「今年の作付けは無理でも、できる限りのことをして、来年は必ず米を作りたい」。同県内灘町に避難している白米千枚田愛耕会の小本隆信代表にも、電話で話を聞いた。同会として草刈りなどの管理作業に加え、復旧工事もしたいという。 千枚田は、都市住民が棚田を借りて作業するオーナー制度を取り入れており、全国のオーナーからは「応援できることはないか」との申し出が相次いでいる。「本当にありがたい。時間がかかっても必ず元の姿に戻し、千枚田と能登の景色を守っていきたい」(金子祥也)
日本農業新聞