年金は「繰り下げ受給」を選び、80歳まで生きれば“損”はしない!? 「数百万円増額」のケースも…知って得する「繰り下げみなし増額制度」
公的年金の受給開始年齢は65歳ですが、「繰り下げ受給」をすることによって受給額を増やすことができます。しかし、「繰り下げ受給」を選んでも、あとで何らかの事情で取りやめなければならないケースもありえます。その場合、損をしないようにする「繰り下げみなし増額制度」が2023年4月1日から導入されています。これによって「繰り下げ受給」を選びやすくなりました。本記事で解説します。 都道府県「厚生年金」「国民年金」受給額ランキング…2022年3年度末現在
公的年金の受給額が増える「繰り下げ受給」
「繰り下げみなし増額制度」について解説する前に、まず、前提として公的年金の「繰り下げ受給」についておさらいしておきましょう。 日本の公的年金制度の受給開始時期は、原則として65歳からです。ただし、最長で75歳まで遅らせる「繰り下げ受給」を選ぶことで、受給額を増やすことができます。受給開始時期は1ヵ月単位で設定することができます。なお、60歳から受給できる代わりに年金額が減額される「繰り上げ受給」もあります([図表1]参照)。 会社員・公務員が加入する「厚生年金」の場合、受給できる年金が「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2階建てになっていますが、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」のそれぞれについて別々に「繰り下げ受給」を選ぶかどうか決めることができます(もちろん、「繰り上げ受給」についても同様に選べます)。
「繰り下げ受給」の損益分岐点は「寿命」によって変わる
ただし、「繰り下げ受給」を選んで年金が増額されても、考え方によってはそれが必ずしも「お得」とは限りません。というのも、受給期間が短くなるので、寿命によってはトータルの受給額がむしろ少なくなるケースがあるからです。 そこで、いつまで生きればトータルの受給額が多くなるのか、「損益分岐点」を知っておくことが大切です。 たとえば、65歳受給開始の年金額が150万円の人が、「繰り下げ受給」を選んで75歳から受給開始にしたら、何歳まで生きればトータルの受給額で得をすることになるか、損益分岐点を計算してみましょう。 「繰り下げ受給」を選ぶと、受給開始のタイミングを1ヵ月繰り下げるごとに、65歳受給開始の場合の受給額に0.7%ずつ増額されていきます。したがって、1ヵ月あたりの受給額の計算式は以下の通りです。 【繰り下げ受給を選んだ場合の受給額の計算式】 年金額+(年金額×0.7%×繰り下げた月数) したがって、65歳受給開始の年金額が150万円の人が、受給開始を75歳まで繰り下げた場合、年金額は以下の通り、276万円になります。 150万円+(150万円×0.7%×120ヵ月)=276万円 そして、86歳11ヵ月まで生きれば、以下のように、繰り下げ受給を選ばなかった場合より受給総額が多くなります。 【86歳11ヵ月時点での受給総額】 ・75歳まで受給開始繰り下げ(年276万円×受給期間143ヵ月)⇒3,289万円 ・65歳受給開始(年150万円×受給期間263ヵ月)⇒3,287.5万円 つまり、トータルでの「損益分岐点」は86歳11ヵ月ということになります。まで生きれば、何歳まで生きるかは不確定ですが、一つの目安になります。