最低賃金が「55円」アップ! 賃上げを期待したけど、会社からは「諸手当を含めば最低賃金はクリアしている」と言われました。最低賃金には“諸手当”も含まれるんですか? 働く人が知っておくべきポイントを解説
会社には最低賃金周知義務がある。しっかり説明を求めよう
会社は、最低賃金の適用を受ける労働者の範囲、最低賃金額、参入しない賃金および効力発生日を従業員に周知する義務があります。例えば作業場の見えやすい場所に掲示するなどです。 人事部から「諸手当含めれば最低賃金はクリアしている」と言われても、最低賃金の計算でどんな手当を含んでいるのかなど、しっかり説明を求めましょう。手当の名称ではなく「実質的に労働の対価として基礎的な賃金で、月々変動するものではない」という観点で確認することが大切です。疑問があれば労働基準監督署などへの相談も検討しましょう。
最低賃金法に違反したらどうなるか
最低賃金額に達しない賃金を就業規則や労働契約で定めても、その部分は無効です。最低賃金法第4条に基づき、無効となった部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(「強行的・直律的効力」と言われる効力です)。なお、最低賃金以上の賃金を払わなかったら50万円以下の罰金が科されます。 もし従業員が最低賃金法違反と考えた場合、労働基準監督署などに申告することも可能です。それに対して会社が解雇や不利益な取扱いをした場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。従業員への最低賃金以上の支払いは、国により保護されているのです。
最低賃金額以上かどうかを確認する方法
最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を比較します。 ・時間給制の場合 時間給≧最低賃金額(時間額) ・日給制の場合 日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額) ・月給制の場合 月給÷1ヶ月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額) ・出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合 出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間の総労働時間数で除して時間当たり金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。 では月給制の場合、最低賃金以上であるかどうかを実際に計算して確認してみましょう。今回は福島県(最低賃金額955円、引上げ額55円)のAさんを例にとり見ていきます。 (前提) ●基本給15万円、職務手当1万円、通勤手当5000円、時間外手当3万5000円(合計20万円) ●労働時間:1日当たり8時間(年間労働日数250日) まずAさんの賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。除外される賃金は通勤手当、時間外手当です。職務手当は除外されません。 20万円-(5000円+3万5000円)=16万円 次に、この金額を時間額に換算し、最低賃金額と比較します。 (16万円×12ヶ月)÷(250日×8時間)=960円>955円 つまり、Aさんは最低賃金額以上となっているため、賃上げの対象にはなりません。
最低賃金は労働者の基本的な権利
最低賃金以上の賃金を受けるのは労働者の基本的な権利です。 賃金の最低額を保障することで労働条件を改善し、生活の安定や労働力の質的向上をはかっています。これが「事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与する」という国の重要な政策なのです。自身の権利はしっかり主張し、疑問があれば労働基準監督署などに相談しましょう。 出典 e-Gov法令検索 最低賃金法 厚生労働省 最低賃金制度の概要 厚生労働省 労働者と最低賃金制度 厚生労働省 最低賃金額以上かどうかを確認する方法 執筆者:玉上信明 社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー
ファイナンシャルフィールド編集部