フリーアナウンサー・神田愛花『『龍が如く』で、世界一の夫婦だ!』
「テレビゲームなんか、やっちゃダメ!」 と言われて育った。視力が落ちるし、勉強をしたほうが将来のためだからだそうだ。だがある日の夜中、3歳年上の兄と二段ベッドで寝ていると(私は上段)、天井の蛍光灯が眩しくて目が覚めた。(なにごと!?)と下を見ると、兄がテレビゲームをしていたのだ。両親に内緒で、どこからかゲーム機を調達してきたらしい。(眠いのに!)と腹が立った。しばらくすると、兄は大切そうにゲーム機を紙袋に入れ、引き出しの下に隠した。翌朝起きてすぐ、私は母にゲーム機の在(あ)り処(か)を伝えた。そしてその日の夜中。兄はゲーム機が空の靴箱に変わっていることに気づき……「なんでだよ!!」と大声で叫んだ。その声でまた起きたが、泣き崩れている兄を上段から視認し、(ざまぁみろ)と思って再び眠りについた。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~43回)はこちら これは私が小学6年生の時の出来事だ。それ以降、ゲーム機に触れることもゲーム画面を見ることもほとんどなく過ごし、37歳で夫と結婚した。 そこで驚いた。当時夫は45歳だったが、ゲームをしていた。私ももう大人。日々仕事を頑張っている人間が貴重な自由時間をどう過ごそうと、とやかく言わない。だがオジサンがゲームで遊ぶ姿を生で見たのは初めてで、衝撃的だった。 ″ゲームはやめませんか?″という意味を込めて「ゲームって面白いの? 大人もできる?」と聞いてみた。返ってきた答えは、「面白い! 年齢は関係ないよー!」……私の意図は伝わらなかった。 仕方がないので、横に座って見てみた。歌舞伎町を模した神室町(かむろちょう)という歓楽街で、刺青の入った男たちが、殴ったり蹴ったり。(なんだこれ……)と一瞬引いたが、主人公はパワーが減ると栄養ドリンクを飲んで回復し、戦いに勝つといろいろ貰えるという、わかりやすい内容。そのゲームの名は、『龍が如く』だった。 面白かった。大学時代によく飲み歩いていた歌舞伎町。夜中はカラオケルームで過ごしていたが、(外ではこんな激しい喧嘩が!?)と思うと他人事ではなくなり、いつの間にか「あっちに敵!」とか「あそこが光ってる!」と、立ち上がりながら画面を指差し、声が出ていた。 さらにすごいことを発見した。夫は普段、暇さえあれば「お腹空いたぁ」と呟き、私の目を盗んで何か口に入れようとする。だがゲームをしている間だけはコントローラーを握り、食べ物を掴もうとしないし、テレビ画面に夢中で食べ物に視線が向くこともないのだ。(何も食べずに数時間も過ごせるなんて!)。肥満体型の夫に長生きしてもらいたいと願っている妻にとっては、奇跡のような状況だ。 ◆夫婦のかけがえのない時間 現在、夫は最新作『龍が如く8』をプレイ中。舞台のモデルは、横浜出身の私に馴染み深い伊勢佐木町と、大好きなハワイだ。建物や道は現実にそっくり。 しかも嬉しいことに今回、私にも重要な役割が与えられた。現実世界でもそうなのだが、どうも私は″無料で手に入るもの″を見つけるのが速いようだ。夫が主人公を全速力で走らせていても、私は″無料アイテム″を見逃さない。遠くの小さな発光にも(ん? あれは!)と即座に気づき、「前方右手の道路脇!」と指示を出せる。夫は私の指示通りにアイテムをバシバシGET。共同作業で、どんどん強くなっていくのだ。2人だからできる! (そう! 2人じゃなきゃダメなんだ!)と、世界一すごい夫婦に思えてきた。 ゲームの中のハワイは、治安が悪く喧嘩ばかりだ。それでも、毎日2人でハワイ旅行をしている気分になる。アラモアナショッピングセンターを模した″アナコンダショッピングセンター″では、喧嘩用の金属バットを探してお店を回った。まるで本当にお買い物をしているようで、とても楽しかった。 子どもの頃に両親に言われていたことなんてどこへやら。早めに帰宅し、夫の帰宅前に入浴を済ませる。夕飯は短く済むよう、簡単に食べられるメニューに。デザートは、細かく切って爪楊枝を刺しておく……など。私の知力は今、『龍が如く8』を快適にプレイするために何をすべきか、にフル稼動している。 ずっと″悪の存在″と思ってきたテレビゲームに、こんなに楽しい夫婦の時間を提供してもらえるなんて。心から……『龍が如く8』、どうもありがとう!! かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年3月22日号より 文・イラスト:神田愛花
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