国内最高齢のアジアゾウ、飼育した井の頭自然文化園「1つの時代終わった」
アジアゾウの国内最高齢記録を更新していた井の頭自然文化園(東京都武蔵野市)の「はな子」が5月26日、推定69歳で死亡した。戦後間もない1949年にタイから来日。東京・上野動物園を経て54年に井の頭自然文化園に移り、多くの人に親しまれてきた。はな子の飼育に関わってきた同文化園の堀秀正副園長にゾウの飼育の大変さを聞いた。
はな子が歩んだ歴史と感謝のメッセージ
園内には、献花台が設けられていた。地元小学校などからはメッセージのほか、生前のはな子を偲ぶユリやアジサイなどの花々が贈られていた。駐日タイ王国大使からは「残念な気持ちでいっぱいです。飼育してくださった職員の皆様に感謝します」という書簡が届いた。 第二次世界大戦後、ゾウを見たいという子どもたちの希望をかなえるため、はな子が故郷・バンコクを離れたのは1949年の8月22日、2歳半のとき。日本とタイとの国交が回復されていない時期、多くの人たちに支えられ、来日が実現した。戦後、日本に初めてやってきたゾウだった。 移動動物園で滞在していた伊豆大島で“脱走”する事件をおこしたり、65年にはゾウ舎の堀に落ちたりするなどトラブルもあったが、2004年には文化園来園50周年、07年には還暦を祝ってもらうなどのイベントで来園者を楽しませてきた。 飼育には大変な苦労があったに違いない。
36歳にして歯が1本に
「高齢アジアゾウの飼育の大変さを教えて欲しい、と言われても、単純に説明しにくいのです」と苦笑するのは、他の飼育員とともにはな子の飼育に関わってきた井の頭自然文化園の堀秀正副園長兼飼育展示係長(51)。 こう飼育すれば長生きする、という単純なマニュアルはない。堀副園長は、動物には一頭一頭に個性(性格面や健康状態を含む肉体面など)があり、各園の飼育環境も加えて、それぞれに必要な対応策を考える必要があると強調する。 アジアゾウには歯がたった4本しかない。しかも、はな子の場合、36歳だった1983年(昭和58年)に、上あご両側の歯が抜けた段階で、残り1本になってしまった。健康な若いゾウだと、牧草や干しわら、竹などといった野生に近いエサを与えるが、歯が1本しかないはな子は咀嚼できず、食べられない。