【米国株ウォッチ】米たばこ大手のアルトリアは予想以上の決算で上昇中
米国のたばこ製品大手、アルトリア・グループ(ティッカーシンボル:MO)の株価は、主に経口たばこ製品の成長に牽引された予想以上の四半期業績により、この1カ月で約15%上昇した。もう少し長い期間で見ると、アルトリアの株価は2022年初頭につけた38ドル台から、現在の56ドル台の水準まで50%近く上昇している。 その主な理由は以下の通りだ。 ・調整後のEPS(1株あたりの純利益)が2021年の4.62ドルから現在5.02ドルへと約9%上昇 ・この期間、同社の実績PERが8倍から11倍へと上昇 ■何がアルトリアの収益成長を牽引したのか? アルトリアは米国市場でたばこ製品を販売する企業だ。2021年にワイン事業を12億ドル(約1849億円)で売却し、無煙タイプを含むたばこ製品への注力を強めている。一方、米国のインフレ率の上昇に伴い、同社によるタバコの販売量は減少中であり、2021年の938億本から、直近1年間では701億本へと約25%減少した。これがアルトリアの収益の重荷となっており、収益は同期間に211億ドル(約3兆2521億円)から203億ドル(約3兆1287億円)へと約4%減少している。 減収幅が数量の減少幅よりはるかに小さいのは、ここ数年のたばこ価格の上昇によるものだ。アルトリアは、NJOYなどの比較的新しい電子たばこ製品からも利益を得ている。 アルトリアは近年減収となっているが、営業利益率は2021年の54.8%から現在の56.4%へと改善している。また、同社は2021年以降、自社株買いに80億ドル(約1兆2330億円)近くを費やし、その結果、株式総数は6%減少した。マージンの拡大と株式数の減少により、収益のわずかな減少は相殺され、EPSは2021年の4.62ドルに対し、直近1年間では5.02ドルまで上昇した。
FRBが利下げを一時停止すれば、アルトリアの収益源につながる可能性もある
■PER(株価収益率)上昇の背景は? 販売量の減少によるマイナス要素が価格の上昇によってほぼ打ち消されたため、投資家も最近アルトリア株に好印象を抱いている。また、経口たばこ製品からの収益が増加していることも、同社にとってプラス材料だ。現在、米国のたばこ市場では、インフレ率の高まりなどにより、一部の顧客はより安価なブランドに流れている。実際、たばこ市場全体に占めるマルボロ(アルトリアの主力たばこブランド)のシェアは、2021年の42.9%から41.9%へと低下している。しかし、米連邦準備銀行(FRB)はインフレを抑制しながら利下げ方向へと向かうことに注力しており、これが実現されれば消費者心理に好影響を与え、今後は販売量の減少が緩やかになる可能性もあるだろう。 さらに、同社は今年初めにベルギーの酒類メーカーであるアンハイザー・ブッシュ・インベブへの出資比率を引き下げ、それにより生まれた資金を自社株の買い戻しに充てることを決定したが、これも投資家に好印象を与えた。 ■アルトリア株に成長の余地はあるか? アルトリア株の年間リターンは、S&P500種株価指数よりもかなり変動が少ない。年間リターンは、2021年に24%、2022年に4%、2023年にマイナス4%、そして2024年における現在までのリターンは48%である。 バリュエーションについて、私たちはアルトリア株が現在十分に値付けされていると考えている。私たちはアルトリアの目標株価を48ドルとしているが、これは現在の株価よりも約15%ほど低い水準だ。この目標株価は、アルトリア株の適正なPERを9倍とし、それに2024年の予想年間EPSを5.13ドルとして掛け合わせたものだ。PER9倍という数字は、アルトリア株の過去3年間における予想PERの平均値と一致している。 投資家はリスクも考慮すべきである。関税の増加、政権の交代、税率の低下といった可能性も含むさまざまな要因があり、FRBが今後数カ月でインフレの抑制に成功することは難しいだろう。また、インフレ率が上昇してしまい、FRBが利下げを一時停止するようなことがあれば、それは消費者心理に影を落とし、ひいてはアルトリアの収益源につながる可能性もある。
Trefis Team