水上恒司が体現する“最愛の人” 『ブギウギ』『あの花』で演じ分ける笑顔の質感の違い
いま私たちが目にする水上恒司には、いつも胸が締めつけられる。いくら彼が快活な笑顔を見せていようとも、どうにも切ない気持ちにさせられる。朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)や映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(以下、『あの花』)での彼に関してのことだ。 【写真】水上恒司インタビュー撮り下ろしカット この感情の理由のひとつは、それぞれの物語に用意されている設定に拠るものが大きい。けれどもこれを的確に水上が体現できなければ、ここまで視聴者/観客の心は動かされないだろう。そんな俳優・水上恒司の持つ魅力に迫ってみたい。 『ブギウギ』での水上は、ヒロイン・スズ子を演じる趣里とともに、いまや“朝の顔”だ。 水上が演じているのは、大阪にある日本随一の演芸会社・村山興業の御曹司である村山愛助。彼はもともとスズ子の大ファンであり、ひたむきなアプローチの結果、ふたりは一緒に生活をするまでとなり、今では心身ともに支え合うパートナー関係だ。愛助は優しい物言いと笑顔がチャームポイントの、名前のとおり愛らしいキャラクターである。 趣里が2016年放送の『とと姉ちゃん』 に続いて2度目の朝ドラ出演なのに対し、水上はこれが初。彼の俳優デビューは2018年放送の『中学聖日記』(TBS系)で、あれからあっという間に時間が経ったが、まだ最近のことのように感じる。とはいえ、ドラマでは『MIU404』(TBS系)や『青天を衝け』(NHK総合)など、映画では『望み』(2020年)や『そして、バトンは渡された』(2021年)などの人気タイトルに絶え間なく出演し、その短い活動年数にしては十分過ぎるキャリアを築いてきた。すでにもう、若手世代を代表する俳優のひとりである。 劇中の愛助とスズ子と同様に、実際に水上と趣里には9歳の年齢差があり経験値にも開きがあるが、先述したように水上は豊かなキャリアを重ねてきた。『ブギウギ』で披露している瑞々しいパフォーマンスは、初めての朝ドラの現場だからというのではなく、彼の技量によるものなのだろう。 愛助はいつも儚さをまとっているが、これはスズ子に真っ直ぐ向ける純粋な笑顔とは裏腹に、身体が弱い一面を正確に表現してみせているから。いつだって自分のことよりもスズ子のことが一番。そんな健気な姿が私たちの胸を締めつけるのである。 いっぽう、『あの花』で演じる主人公・佐久間彰もつねに儚さをまとう存在だ。 物語の舞台は1945年の戦時下の日本。軍に所属する彼は立派な体格と優しい正義感を持つ人物で、特攻隊員である。つまり、もう間もなくこの世を去ってしまうことが決定づけられている。現代からタイムスリップしてきてしまったヒロイン・加納百合(福原遥)を空襲や厳格な警官から守るなど、どれだけたくましく振る舞っていようとも、彼の存在そのものが儚く悲しいのである。正直なところ百合と彰の関係は、「切ない」などの言葉で済ませられるものではない。 水上はたいていのことには動じないような余裕ある人物像をつくり上げているが、福原の嘆きの演技に呼応するように、その内面が揺れているのがたしかに分かる。瞳の動きや声の感触の変化からだ。彰というキャラクターのトーンを維持したまま“受けの演技”に徹し、目の前で起こる出来事や他者のアクションを柔らかく受け止めている。こういったところに、現在の水上の俳優としての器の大きさが見て取れるだろう。 『ブギウギ』でも『あの花』でも、水上はヒロインにとって“最愛の人”を体現している。しかも両作はほとんど同じ時代を描いている(現在の『ブギウギ』ではすでに戦争は終結)。けれども彰が特攻兵であるのに対し、愛助は身体が弱いため戦争に行くことができなかった。両者はつねにヒロインの味方だが、似て非なるもの。死を覚悟している者と、戦時中であれ愛する人と幸福な時間を過ごす者とでは、笑顔の質感がまったく異なる。これから愛助の無邪気な笑顔にも変化が生じてくるはず。こうした微細な演じ分けができるのが、俳優・水上恒司の魅力なのだ。
折田侑駿