細田守がファンタジーに再挑戦!? 『果てしなきスカーレット』は“家族”から脱却するのか
時をかけるのか。異界へと足を踏み入れるのか。2025年冬に公開を予定している細田守監督の劇場アニメ『果てしなきスカーレット』がどのような物語になるのかに、早くも注目が集まっている。現時点での最新作『竜とそばかすの姫』(2021年)が有名な『美女と野獣』をモチーフにしていたように、名のある古典をモチーフにしているのか。『サマーウォーズ』(2009年)の頃から顕在化してきた「家族」の物語は引き継がれるのか。欧州の中世ともファンタジー世界とも取れるビジュアルからだけでは想像が及ばない物語の登場が待ち遠しい。 【写真】細田守の前作『竜とそばかすの姫』場面写真(全3枚) 「今までとは毛色の違う作品」「誰しもが持っている普遍的なものを表現」「時空や場所を越えた壮大な物語性」。12月23日の製作発表会見にて細田守監督から明かされた『果てしなきスカーレット』に関する要素から、どのような作品になるのかをピタリと言い当てることは困難だ。 細田作品といえば、これまで「家族」が重要なモチーフになっていた。『サマーウォーズ』では陣内家という旧家の大家族の結束ぶりを見せ、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)では母と娘と息子の3人が、困難な状況を乗り越えやがてそれぞれの居場所に向かう成長のストーリーを見せてくれた。 『バケモノの子』(2015年)も同様に、異界へと紛れ込んでしまった少年がクマのようなバケモノに子として育てられながら学んでいく物語が繰り広げられた。やがて親元を離れ独り立ちするところは『おおかもこどもの雨と雪』と同様。こうした「家族」の関係をしっかりと描ききる作風が、親の世代からも子の世代からも関心を持たれ、『おおかみこどもの雨と雪』は42億円、『バケモノの子』は58億円という高い興行収入を獲得する"国民的”な作品となった。 子供の視点から親を描き、時空を超えて祖父の世代にも届くストーリーを通して、繋がっていく家族の系譜を描き出した『未来のミライ』(2018年)。母を失い父親と暮らしながらもどこか居心地の悪い思いをかかえていた少女が、ネットワーク内に構築されたバーチャルな世界で出会いを得て、止まっていた場所から足を踏み出そうとする勇気を獲得する『竜とそばかすの姫』。良好なのか不穏なのかは別にして、どちらにもしっかりと「家族」との関係が描かれていた。 狼男が実在していたり、渋谷のすぐ裏に別の世界が存在していたり、時空を超えたり身体感覚ごと没入できるネット空間が存在していたりと、ファンタスティックでともすれば荒唐無稽と思わせる設定が繰り広げられても、その軸に主人公なり友人といった人間がいて、その周りに家族という関係があってといった現実と地続きの設定があった。このことが、観る人と映画の世界を結んだ。SFやファンタジーがともすればマニアックなジャンルとして、好きな人には人気でも苦手な人は敬遠するといった分断を招く中、家族や親子の関係を盛り込んでおくことで、どの世代にも”自分事”として感じさせたことが、細田作品の安定したヒットにつながったとも言える。 『果てしなきスカーレット』ではその前提が覆るかもしれない。原作漫画がありTVアニメのシリーズもあった『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』(2005年)を除き、監督デビュー作となる劇場版『デジモンアドベンチャー』(1999年)にもあった現代を舞台に含んでいた状況が、『果てしなきスカーレット』の発表に添えられたビジュアルからは掴めない。「毛色が違う」と言っているだけに、モチーフから除外している可能性すらある。