4万人が酔いしれたドラマ 無敵の井上尚弥がネリに“倒された”舞台裏 不世出の怪物を飲み込みかけた重圧「ダウンがあったからこそ」
敵なしの偉才は、いったいどこまで最強の道を歩むのか
そして、5ラウンドに完全にネリの戦意を削ぐ。 わざとロープを背にし、何とか反撃の糸口を模索する相手を誘い出した井上は左フックを一度繰り出してから、身体をわずかに沈めて、またも左フック。この連打にネリもたまらず膝から崩れ落ちた。 趨勢はこの瞬間に定まっていたのかもしれない。何とか気力で立ち上がったネリをいつ仕留めてもいい状況を作り出した井上は、6ラウンドに今度はコーナーに追い詰め、左ジャブ、右アッパーのコンビネーションから、最後は渾身の右ストレート。頭がロープから飛び出るほどの衝撃的な一撃を食らったネリは呆然。咄嗟にレフェリーもTKOを告げた。 あのネリを打ち破った――。直後に東京ドームは観客が総立ちとなり、割れんばかりの大ナオヤコールが巻き起こった。誰もが井上に酔いしれた。 日本のボクシング界、いやスポーツ界にとっても、歴史的な一日は、これ以上にないフィナーレで締めくくられた。 「あのダウンがあったからこそ、こういう戦い方ができた。自分の中でも激闘と言える試合が見せられた。これでまたひとつキャリアを築けたのかなと思う」 単にネリとの勝負というワケにはいかなかった一戦。想像し難い外圧とも向き合い続けた井上は、自身へのプレッシャーをも飲み込んだ。この敵なしの偉才は、いったいどこまで最強の道を歩むのか。 「強くなりたい」 その一心で覇道を突き進む井上。次戦はIBF&WBO世界同級1位の実力派サム・グッドマン(豪州)との対戦が決定的となっているが、右肩上がりに進化を続ける無敵の怪物ならば、軽々と乗り越えてしまう気がしてしまう。 [文/取材:羽澄凜太郎]