税金、裏金、復興… 再出発の石破内閣 「課題の現場」の声
特別国会が11日召集され、首相指名選挙で石破茂首相が再び選ばれた。内閣発足直後の解散から1カ月。衆院選で大敗した自民党は一転して少数与党となり、今後の政権運営は見通せない。有権者は再スタートした石破内閣に何を求めるのか。各地の「課題の現場」で聞いた。 ◇「本当はもっと…」年収の壁に悩む有権者 議席を伸ばした国民民主党が訴えたのが、働けば所得税が課される「年収103万円の壁」の解消だ。パートなどの非正規雇用者が手取りの減ってしまう「壁越え」を意識して、働き控えをする状況が続いている。国民民主と自民、公明両党との協議は本格化しており、有権者も国会での議論を注視する。 保育園で非正規雇用で働く北海道江別市の女性(35)は「本当であれば、もっと働いて稼ぎたいが……」と漏らす。 女性は、夫と子ども2人の4人家族。1日あたり4時間で週3日勤務する。「物価高や今後の子どもの教育費などを考えると世帯収入を増やしたい」と話す。だが、そこで頭を悩ませるのが103万円の壁だという。 自身の収入が103万円を超えると、課税がある上、夫の会社の手当も対象から外れてしまう。労働時間を増やしても世帯収入はほとんど変わらない。だから、働かないことを選んでいる。 女性は「国ばかり税収が増えて、国民はますます生活が苦しくなっている。手取りが増える政策をしっかりと考えてほしい」と訴えた。 ◇裏金議員当選の地元「今も納得いかない」 「政権交代すれば混乱しそうなので石破さんのままでいいが、裏金は今も納得がいかない」。自民党派閥による裏金事件で非公認で出馬して当選した萩生田光一氏(61)の地元、東京都八王子市で長年、自民を支持してきた自営業の男性(76)は語気を強める。自民が当選後、すぐに萩生田氏らの自民会派入りを認めたことも「節操がない」と感じる。野党は政治倫理審査会で裏金追及の構えを見せており、「庶民は納税を1円もごまかせない。石破さんは『政治とカネ』の問題に厳しく対処した方が支持率が上がる」と提言した。 愛知県の「裏金議員」でただ一人当選した愛知15区の根本幸典氏(59)の地盤である豊橋市の主婦(71)は、今回も非自民候補に投票した。「当選したら何でも許されるわけではない」と不満顔だ。首相指名について「誰がなっても、という気はする」。政策ごとに与野党が連携する枠組みについて「一党独裁のようになるよりはいいけれど、手を組むのに妥協してほしくない。賃上げも大事だが、法人税を含めた税の負担を軽くしてほしい」と注文する。 ◇復興遅れる能登「手厚い支援を」 元日の大地震と特別警報が発表された9月の豪雨で二重被災をした石川県の能登半島では、支援を求める声が聞かれた。 「物価が高騰しており、住宅の建て直しや改築には、今の制度では支援額が少ない。国会は、もう少し手厚い支援制度を検討してほしい」 輪島市の坂本利雄さん(74)はそう訴える。地震で半壊した自宅は今も停電したままで、市内の仮設住宅に身を寄せている。周りはみな被災者。復興が遅れる中で、住宅再建への支援を求める人は多いという。 一方、能登半島では元々、少子高齢化が進んでいた。その中で地震が起き、若い世代を中心に地元を離れる住民が相次いだ。これに追い打ちを掛けたのが、豪雨だった。 市内で暮らす女性会社員(54)は「若い人が仕事を得て能登に残れるよう、雇用を生み出す施策が欲しい」と訴えた。 ◇オスプレイ配備「地元の思い拾い上げて」 政府は中国を念頭に、南西諸島の防衛力を強化する「南西シフト」を進める。その一環で、2025年7月に陸上自衛隊輸送機V22オスプレイが配備予定の佐賀空港(佐賀市)周辺からは「地元の思いを拾い上げて」との声が上がる。 配備を容認する立場の佐賀県有明海漁協南川副支所運営委員長の中島浩徳さん(62)は、石破首相について「(新設される)佐賀駐屯地の重要性を分かっているだろうし、地元をないがしろにすることはないだろう」との考えを示す。 ただ、オスプレイを巡っては23年11月に鹿児島県・屋久島沖で米空軍輸送機CV22オスプレイが墜落。今年10月には沖縄県・与那国島の陸自与那国駐屯地で、佐賀空港に配備予定のものと同型機が離陸時に機体を損傷する事故があった。中島さんは「配備後に何か問題があれば大変なことになる。問題が起きないようにきちっとしてから配備してもらいたい」と求めた。【金将来、野倉恵、梶原遊、国本ようこ、五十嵐隆浩】