「慶應のやり方がいいとかじゃなく、野球界の今までの常識を疑ってかかってほしい」――元慶應高監督・上田誠さん【新連載『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.1】
指導者ほど、これまでの野球界の常識を疑ってほしい
上田さんの恩師・前田祐吉さんは、1960年から1965年まで慶應義塾大野球部監督を務め、就任2年目にリーグ優勝に導いた指揮官である。1982年から1993年も再び指揮を執っている。前田さんの指導方針は野球界でもよく知られているが、選手たちには常々こんなことを話していたという。 「日本の野球を一番悪くしてるのが、高校野球だ。あんな全力で走る意味がどこにあるんだ。ピッチャーゴロを打っても、全力で走るのはファーストが落とすかもしれないからだけど、ポジションにつくときに全力疾走して息を切らせながらライトに行って何の意味がある?」 ほかにも、なぜ大声を出さなくてはいけないのか? なぜグラウンドへ向かっておじきをしないといけないのか? なぜ高校生は坊主頭にしないといけないのか?そんな問いを選手たちにたくさん投げかけてきた。 戦争が終わってからも色濃く残る高校野球の慣習に対しての疑問は、前田さんが問い続けた1960年代から時を超えて、少しずつ変化してきた部分はあるものの、今だに戦後からの高校野球の世界観が継がれている部分は多い。 上田さんは語る。 「若い指導者に期待することは、野球はこういうのが常識だと思っていたことを信じないでほしいです。疑え――それにつきますね。慶應義塾のやり方がいいとかじゃないくて、野球界の今までの常識はとにかく疑ってかかってほしいですね」 (インタビュー・文:安田 未由)