<ワンルームエンジェル>枝優花監督&ドラマPが明かす上杉柊平&西村拓哉の起用理由「上杉さん、西村さん以外は考えていなかった」
上杉柊平と西村拓哉(Lil かんさい)がW主演を務めるドラマシャワー「ワンルームエンジェル」(毎週木曜深夜1:29-1:59ほか、MBSほか、Huluでも配信)が現在放送中。同作は、「このマンガがすごい!2020 オンナ編」13位受賞ほか、数々の賞を受賞し話題となったはらだの同名コミックを原作に、人生投げやりな“ヤカラ男”・幸紀(上杉)と記憶喪失中の生意気過ぎる天使(西村)の不思議なシェアライフを描く。 【写真】上杉柊平“幸紀”の胸に飛び込む西村拓哉“天使” WEBザテレビジョンでは、監督の枝優花氏、同作のプロデューサーを務める上浦侑奈氏、瀬島翔氏にインタビューを実施。実写化においてこだわっている点や、キャストの起用理由、視聴者からの反響への思いなどについて話を聞いた。 ■「これまでのドラマシャワー枠とは違う新しいチャレンジになる」 ――ドラマシャワー枠では継続してBL作品を扱われていますが、同枠のコンセプトや狙いはありますか? 上浦P:2022年に新設したドラマ枠で、ドラマシャワー自体はジャンルを絞らない新しいドラマ枠として立ち上げましたが、KADOKAWAさんのBLドラマレーベル・トゥンクとのコラボレーションでBL作品を打ち出していく中で、昨年に放送した6作品が好評だったので、その流れで2年目に突入しています。 今回の「ワンルームエンジェル」は、広義での愛の物語ではあるのですが、これが恋愛感情と断定していいかどうかということに関してはさまざまな見方がある作品で、そこが結果的にドラマシャワー枠としては初めての試みになっています。 ――では、この作品をドラマ化するに至った経緯をお聞かせください。 上浦P:原作を読み、これまでのドラマシャワー枠とは違う新しいチャレンジになると思いました。はらだ先生による感涙必至の傑作として有名な作品ではありますが、扱うテーマの繊細さ、主人公2人の成長と相互補完が魅力で、この枠の新しいアプローチになればいいなと思い映像化に至りました。 ――映像化において最もこだわった点はどういったところでしょうか? 枝監督:私は、漫画原作の作品をやる際は最初に原作読んだ印象を大事にしています。初めにしっかり読み込んでからは現場入りの一、二週間ぐらいまではあえて原作を見ない状態で準備します。 漫画をただ映像化するくらいならやらない方がいいと思っているので、映像化した意味が出るように考えます。漫画のコマをそのままトレースする撮り方はしたくないですし、漫画を読み込み過ぎるとその通りにやらなきゃと無意識にとらわれて、それを再現しようとしてしまうので。 ただ、私も好きな漫画が実写化されたときに不安な気持ちになることが多いというか…変に改変されてしまうのではないかという気持ちがすごく分かるので、はらだ先生の世界観を壊さないようにすることはすごく意識しました。 具体的な話をすると、漫画だと顔の寄りで絶望を見せているところを、映像にしたときは音響効果や色彩の情報が追加されるので、逆にバックショットでシンプルに見せた方がより絶望を高めることができる…みたいな。 はらだ先生がどうしてこのコマに落としたのか、なぜこのページだけ黒枠なのかなどの元々の漫画ならではの見せ方の意図を汲み取り、その目的がより効果的になるような映像のカット割りや演出を考えて落とし込む作業を大事にしました。 ■特殊造形の羽の製作期間は約1カ月「このレベルで動くんだ!」 ――“天使”という非現実的なキャラクターが登場しリアルな羽をまとっていますが、この特殊造形で作られた羽へのこだわりをお聞かせください。 枝監督:私が「羽も体の一部だから、呼吸しているみたいに動いたらいいですよね」とぽろっと言ったのを、プロデューサーのお二人が尊重してくださって、CGでやるよりリアルで作った方がいいという話になりました。 上浦P:そうですね。ジブリ映画でいう“バーっと風が吹く”感じで、感情が動いたときのシーンを羽で象徴的に表現したかったんです。心が満ちるときに羽がフワッと上向いたり、悲しさや苦しさで羽が抜ける演出で、感情を表現したいというアイデアを枝監督からもいただいて。 加えて、「コスプレのようにしたくない」というのが私たちの一番の心配事だったので、石野大雅さんがその思いを汲んで、特殊造形で随時動く軽い羽を1カ月ぐらいかけて作ってくださいました。撮影のギリギリまで実物が上がってこず、誰も見たことがない状態で打ち合わせをしていたので、緊張が続きました(笑)。 ――初めて羽の実物を見たときはどう思われましたか? 枝監督:羽をつける西村さん自身もとても驚いていましたが、出来上がりを見たときは我々も「このレベルで動くんだ!」という驚きがありました。ビジュアル撮影のときが初お披露目だったのですが、実はそのときもかなりギリギリで、間に合っているとは言いがたい2時間押しのスケジュールで最後まで粘ってくださっていて(笑)。とても感謝しています。 ■満場一致のハマり役「上杉さん以外の方は一人も考えていなかった」 ――上杉柊平さんの起用理由を教えてください。 上浦P:幸紀には“ヤカラ男”という表現がありますが、そういった見た目の印象というよりは、孤独さの内側にある優しさ、温厚さみたいなところの全てにおいて上杉さんがぴったりだと思いお声掛けしました。また、幸紀が30代の設定なのですが、年齢を下げてキャスティングしたくないという思いもありました。 枝監督:上杉さん以外の方は一人も考えていなかったです。もし駄目だった場合の第二候補もいつもは考慮して発言するのですが、上杉さんしか考えられないので、「駄目だった場合はどうやって受け止めたらいいんだろう…」と(笑)。 この役の大事なところは、本当はすごく優しくて繊細なところだと思います。そして、ご本人とお会いしてすぐに「この人めちゃくちゃ優しくて繊細なんだな」と分かりました。役を演じるときはもちろん自分ではない誰かを演じますが、ご本人がそもそも持っている人間性がどうしても出てきてしまうし、そういうものが出た方が一体感があると思うんです。 上杉さんは、所作一つ一つに対しての気遣いと優しさが常にあるというか…。仕上げ作業をしていて気付いたのですが、天使の抜け落ちてしまった羽を拾うシーンで、原作では全部拾って帰っていくのですが、ドラマでは都合上拾い切らないで去っていくことになって。 そこで、上杉さんは最後にちゃんと拾い切れなかった羽を見て去っていたんです。台本には書かれていませんが、そういった細かい視線一つでも、ご本人が持っている優しさが無意識に出ているんだと思います。その繊細な感覚が元々役に近しい方で、そういった気遣いに救われていました。 ■圧倒的なビジュアルのマッチング「この世に西村さんしかいない!」 ――続いて、西村拓哉さんの起用理由を教えてください。 上浦P:一年前の企画段階から西村さんしか考えていなかったのですが、第一のきっかけは圧倒的なビジュアルのマッチングでした。この原作の天使を演じて違和感がない方って、この世で見つけるのはとても難しいと思うんです。あの白い学ランに白い羽で現れたときに、ちゃんと天使として存在できる方というのは、「この世に西村さんしかいない!」と撮影を経てさらに強く思っています。 あとは、言い方が難しいのですが、小生意気なチャーミングさで場を和ませられるところが役と似ています(笑)。今作の天使は、いわゆる神聖なキャラクターではないんですよね。天使らしからぬ発言がすごくポイントになっていて、一見美しいビジュアルなのですが、下ネタも言うし、幸紀に対する態度とかもちょっと生意気なところがあって弁の立つキャラクターなのですが、そのチャーミングさもすごく合っていると思います。 枝監督:最初はご本人も緊張していたのか“スン”としていたのですが、だんだん生意気になってきて(笑)。でも、それもあえてやってくれている優しさなんですよね。ずっと元気で笑顔でいてくれて、疲れているだろうに楽屋にも戻らず、アイドルが持っているタフさみたいなものも感じました。 元々ご本人が持つ優しさと、ご自身のビジュアルと社会的な立ち位置を分かった上でのしっかりとした振る舞いに、ご一緒して「これはみんな好きになるわ」と思いました。そういうところに現場の大人たちもすごく救われていました。 ■共演陣が不思議なシェアライフに花を添える ――共演の田中洸希さん、おいでやす小田さん、長谷川京子さんの撮影現場での印象はいかがですか? 枝監督:田中さんが演じたA君という役は、発言と思いが裏腹で、顔に現れる感情の方が大事な役でした。今作ではせりふも少ないため、その表情をどれだけ撮れるかが課題でしたが、彼もちゃんとその感情の機微みたいなものを分かってくれていて、表情や目で演じてくれました。 おいでやす小田さん演じるコンビニ店長は、元々原作では標準語なのですが、小田さんからの提案で関西弁にしたのが結果的にうまくハマったなと思っています。ご本人はとても真面目にやっていて笑わせようとしているわけではないのですが、声の大きさやコミカルな動きに周りのキャストが笑ってしまって、何回も撮り直しました(笑)。現場自体にパワーを与えてくれて、良いアクセントととして活躍してくれました。 幸紀の母・あり紗を演じる長谷川さんとは、事前に打ち合わせをして、「女手一つで育ててきた母親としての強さを見出したいです」と仰っていただきました。確かに、あり紗は言葉遣いも強いので、その印象だけで終わってしまうのは避けたいと。 あまり登場回数も多くないので、出てきたときにしっかりとあり紗の存在が機能するように、一つだけせりふを加えて、母親としての優しさと強さの奥にある部分をすり合わせて、現場で一緒に作っていきました。 ■視聴者からの反響に感謝「同じ視点で受け入れてくださっている」 ――放送開始後の視聴者からの反響をどのように感じていらっしゃいますか? 上浦P:はらだ先生が描いてきたこの作品は、人間愛の物語だと思っています。それは対外的な愛だけではなくて、自分を許すことや自己肯定も含めた広義での愛です。故に、毎話いわゆるキラキラの胸キュンを描いているわけではないですし、苦しい展開も続いていくのですが、思っていたよりもずっと深いところで皆さまが見てくださっていて、驚いていますし幸せに思っています。 原作ファンの方もたくさん見てくださっていて。原作と少し違う部分もあるのですが、精神面の共通点を見出してくださっているのか、同じ視点で受け入れてくださっているのがすごく伝わって、とてもありがたく思っています。 枝監督:元々原作のファンが多いと聞いていて、シーンをテレコにしたり増やしたりしているところもあり、それをどこまで受け止めてもらえるのだろうというドキドキがありました。第1話放送のときは全員でXのハッシュタグをドキドキしながらリアルタイムで追っていました。厳しい意見も受け止めるつもりでいたので全体的に好意的な感想が多かったのには驚きました。 あとは、気付かなくてもおかしくないくらいの些細なこだわりもよく見てくださっていて、だんだん部屋が綺麗になってきているとか、2人の座り位置の変化や、幸紀がちゃんと洗濯物もたためるようになったところなど…。 個人的には、見返したときにさらに面白くなるような演出をしたいなと思って細かいところにもこだわりを持ってやっていたのですが、既に気付いてくださって、そういう楽しみ方をしてくださる方が結構いることが意外で、わざわざつぶやいてくださることがうれしいです。 ――最後に、最終回に向けた見どころと視聴者へのメッセージをお願いします。 上浦P:私たちは今回、A君というキャラクターを原作から掘り下げて描いています。彼が取るある行動が、二元論的な善人と悪人といったところではない何かで伝わってほしいと思っています。 キャラクターを絞らせていただいていて、タカコというキャラクターをなくした代わりに、その尺を割いてA君と天使の過去をドラマオリジナルでありつつ、はらだ先生のご監修の下で話を膨らませていただいているので、私たちなりの一つのアンサー・提示が、5話以降に一番含まれている気がします。 幸紀と天使が共に過ごしていく中で、大きな事件はないですが、その日々の積み重ねによって、自分を認め、許せるようになることで感情が出せるようになっていくので、5話以降に関しては、1話とは全く違う2人の顔がどんどん見えてくると思います。そこが切なくもあり、この作品の愛おしさでもあると思うので、とにかく2人の変化を見てほしいです。 枝監督:2人がどう変化して最後を迎えるかが見どころだと思います。過去の過ちによって自分を許せずに、自らを罰するために人間としての最低限の生活をし、感情も失ってしまったある意味“人間ではない”幸紀と、本当に“もう人間ではない”天使と。2人が一緒になることで、人として生きるということはどういうことなのか、人間としての自身を取り戻していく話にしたいと思って作ってきました。 だんだん笑うようになったりお互い素直に言葉を発するようになったり、うれしいという感情を持っていいんだと思えたり。そういうところから、5話以降は、幸紀も天使も“人間”になっていきます。最終回のあるシーンで、「この顔を撮るためだけにやっていたんだな」と思えるお二人の顔がありました。最終回に向けて苦しい展開が続きますが、見守っていただけるとうれしいです。 瀬島P:全6話を通しての成長が見どころの話なので、最後まで見てもらえたら伝わるものがすごく多いと思います。最終話まで見て、改めてその後もう1回全部見通して見てもらえたら、また見え方が変わることも多い作品です。ぜひ最後まで楽しんで見ていただければと思います。