【コラム】美しさだけでない、台湾作品におけるドラマの魅力を引き出す映像美とは
日本でもBL系ドラマが数多く制作されるようになり、胸をときめかせてくれる作品が多くファンも急増している。今、注目が高まっている台湾ドラマにも良作は豊富にあり、本記事ではBL系ドラマファンにおすすめしたい台湾BLを3作品紹介する。本記事では体を売って生きる青年にスポットを当てた「マネーボーイズ」、多彩な展開を誇る「HIStory」シリーズ、台湾の映画賞で評価された感動のヒューマンドラマ「親愛なる君へ」を取り上げ、台湾ドラマの魅力について考察する。 【写真】体を売って生きる青年にスポットを当てた台湾ドラマ「マネーボーイズ」 ■万年2位の秀才が奮闘する「永遠の1位」 「HIStory」シリーズのスタッフが集結し、スポーツも成績も1位の英才と、彼のせいで万年2位の屈辱を味わい続けた秀才との恋愛を描いたラブストーリー。英才であるシードーを演じるのは台湾のボーイズグループSpeXialの元メンバーであるリン・ズーホン、秀才のシューイーは「何曜日に生まれたの」にも出演しているYUが演じている。 大学4年生で水泳部のエースであるシューイーは、新入生歓迎の水泳大会で優勝し、幼なじみのユーシンに告白する計画を立てる。しかし、幼い頃から1位の座をさらっていたシードーが現れ、驚いたシューイーはプールに落ち、計画は台無しに。小学校から高校まで勉強でも何でも、シューイーの前には必ずシードーという存在があった。大学に入学してやっと離れられたと思ったのに、大学2年の時にシードーが転入してきて、シューイーにまた「万年2位」の悪夢が蘇る…という物語が繰り広げられる。 オープニングにも登場する水中のシーンに注目してほしい。青く澄んだ水の中が美しく、まるで別世界の異次元のように感じられる。本ドラマにはコミカルなシーンや演出も少なくないが、水中のシーンはとてもロマンチック。身体の動きは必然的にスローモーになり、髪の毛の動きひとつにしてもエレガントで、無数に散らばった泡がキラキラと輝いてムードたっぷり。そして、なんといっても、外の喧騒が遮断されてこの世界に2人だけしかいないような錯覚に陥らせ、胸をときめかせてくれるのだ。 ■老婆を手に掛けた主人公の真意とは…?「親愛なる君へ」 本作は亡き同性パートナーの家族を支える青年・ジエンイーの姿を通して、血の繋がりを越えた家族の絆を紡いだ感動のヒューマンドラマ。ジエンイーを演じた「一年之初」のモー・ズーイーと、ジエンイーの亡きパートナーの母・シウユーを演じた演技派女優のチェン・シューファンがそれぞれ第57回金馬奨において最優秀主演男優賞と最優秀助演女優賞を受賞し、最優秀オリジナル音楽賞も獲得している。 年老いたシウユーの介護と、その孫のヨウユーの世話をひとりでこなしている青年ジエンイー。彼女たちと血のつながりはなく、ただの間借り人だったが、ジエンイーは亡き同性パートナーの家族である2人の面倒を見ることで、彼への弔いになると思っていたのだった。しかし、ある日、シウユーが急死し、その死因を巡ってジエンイーに疑惑の目が向けられることに。警察の捜査によって不利な証拠も見つかり、最終的にジエンイーは自ら罪を認めてしまう。だが、そこには、愛する家族を守りたいというジエンイーの思いが込められていた。 ドラマの舞台は美しいとは言い難い生活感あふれるジエンイーたちの家が中心だが、過去の回想場面で登場する山のシーンのが非常に美しい。ジエンイーとパートナーが登山をし、緑の大自然が広がって霧が立ち込めて神秘的なビジュアルが広がる。ミステリー仕立てのドラマとなっており、この霧がまるで真実の隠されている状況を表しているようで、美しさと心理的な効果をもたらしている。 ■体を売って生きる青年にスポットを当てた「マネーボーイズ」 新鋭C・B・イー監督による長編デビュー作。家族のために自らの体を売って生きる青年にスポットを当て彼と彼を取り巻く人々を描いている。刹那的に日々を送る主人公の生き様や保守的な家族たちとの軋轢を追い、現代を生きる若者たちの漠然とした不安感をあぶり出す。 恋人のシャオレイと同棲しながら、体を売って田舎の両親に仕送りを続けているフェイ。田舎の家族はフェイをあてにしながらも、彼が同性愛者であることは一族の恥として受け入れなかった。ある日、フェイが客から暴行を受けたことを知った恋人のシャオレイは、その男を叩きのめすのだったが――というあらすじが展開する。 作品全編、C・B・イー監督の独特の感性による映像美で彩られた本作。風光明媚な地方からモダニズム建築が映える都会まで、さらには泥の中の乱闘でさえも魅力的な映像で見るものを惹きつける。また、美しさだけでなく、天井の低い画角は圧迫感があってこちらも息苦しく感じられ、長回しを多用したカットは臨場感に溢れており、没入感を与えてくれる。 ■ただ美しいだけでなく、ドラマの魅力を引き出す映像美 今回紹介した3本はコミカルなラブストーリーもあれば社会問題を盛り込んだシリアスなドラマもあるが、どの作品も映像が美しいことは共通している。その美しい映像が作品の核となる部分と呼応する。「永遠の1位」は胸の高鳴りを、「親愛なる君へ」はミステリー要素を、「マネーボーイズ」は登場人物の生きづらさをそれぞれ映像でも感じさせる。 ただ美しいだけでなく、映像美がさらなるドラマの魅力を引き出しているポイントに注目して鑑賞してみてはいかがだろうか。 ◆構成・文=牧島史佳