「チリン」と夏の音色で涼呼ぶラムネ 〝エー玉〟跳ねるオールガラス瓶 彩時記~7月・文月
東京の古きよき下町の風情を残す葛飾区柴又。映画「男はつらいよ」の主人公、寅さんの生まれ故郷で知られる。柴又帝釈天の参道にある茶屋「高木屋老舗(ろうほ)」ではこの時季、名物「草だんご」のお供は冷たいラムネが定番だ。 【表でみる】7月のこよみ・主な行事 今では珍しい、ガラス製の「オールガラス瓶」がレトロな雰囲気を醸す「柴又ラムネ」。冷えた瓶の口に玉押しの突起を当て、手で押すと、ビー玉が落ちて勢いよく泡がはじけた。飲み口までひんやりとして限界まで冷たい。すっきりした甘みと爽快な喉ごし。懐かしい清涼感に、体にこもった熱がすーっと引いていく。 「ここは寅さんの町。いつ帰ってきても寅さんが迷わないように、町並みも人情もなるべく変えないようにしています。昔ながらのラムネは、その大事なキャラクターの一つです」 同店の6代目店主、石川宏太さん(71)は、穏やかな口調でそう語った。 瓶にある2つの丸いくぼみの間に、ビー玉をひっかけながら飲むのがコツ。飲み干すとビー玉が跳ねて、「チリン」と澄んだ音色が響いた。 柴又ラムネは先の東京五輪の前年、昭和38年から地元の路地裏にある小さな工場でつくり続けられている。大越飲料商会の社長、大越恒男さん(88)は、「この音がいいんだよね。風鈴と同じように。夏場は配合を変えて酸味を強くし、よりさっぱりとした味わいにしているんですよ」。 ビー玉には王冠やコルクと同じ、栓の役割がある。ラムネの製造ラインでは、ビー玉が沈んだ状態でシロップを入れ、炭酸水を注いだら瓶を逆さまに。ビー玉が炭酸ガスの圧力で口ゴムに押し付けられ、栓となる。 「本当はラムネ瓶のはビー玉じゃない」と大越さん。なぞかけに聞こえ、首をかしげると、こう続けた。「玉にゆがみや傷があったら炭酸ガスが抜けてしまう。だから、ラムネ瓶用に作られたガラス玉は真球に近いエー(A)玉。子供たちが遊んでいるのがビー(B)玉なの」 製造・回収に手間もコストもかかるオールガラス瓶は、国内での生産が30年以上も前に終了。柴又ラムネも、今では飲み口がプラスチック製のものが主流で、オールガラス瓶のラムネは、瓶の回収が可能な地元の得意先にだけ卸す。現役で残る約600本の瓶にも、〝寿命〟が近づいている。 「人気は根強くてね。回収すれば再利用できるからエコで、今の時代には合っているんだけれど…」