【漫画家に聞く】大学野球、そこは戦場ーー諦められない球児たちの戦い描くSNS漫画『戦場のスラッガー』が激アツ
甲子園ではなく、大学野球こそが戦場――。高校球児として活躍した選手たちが、進学後もプロへの切符を賭けて戦い続けるのが大学リーグだ。そこに目を付けたSNS漫画が『戦場のスラッガー』である。 【漫画】諦められない球児たちの戦い描くSNS漫画『戦場のスラッガー』 取材に基づいたリアリティのある本作を描いたのは、足立和平さん(@wahei_fee)。連載作『飯を喰らひて華と告ぐ』を終え、今は次の連載の準備をしているという。その彼に大学リーグにフォーカスした理由とその制作について聞いた。 ――本作の反響はいかがですか? 足立和平(以下、足立):2016年に制作してから、Xで何度か再掲しました。反響のある時とない時の差はありますね(笑)。 ちょうど今回は連載していた『飯を喰らひて華と告ぐ』が完結して、一番フォロワーさんが多いタイミングだったので反響が多かった気がしました。でも自信作なので、もっとたくさんの人に読んでもらえたら嬉しいです。 ――着想のきっかけについて教えてください。 足立:僕自身が高校生まで野球部で「将来は野球漫画を描くぞ」と思っていました。そして、いざ野球を題材に読み切りを描こうと思った時に、負けたら終わりの高校野球より面白いものはないかなと。そこでリーグ戦の大学野球に目を付けたんです。 ちょうど東大と京大の野球部にひとりずつ友達がいたのも着想に繋がりました。特に取材したのは京大です。彼らは「関西学生野球連盟」というリーグで戦っているのですが、その他のチームは甲子園で見たことある人ばかり。実際に見た時は震えました(笑)。 でもその強豪相手に僅差の試合をするんですよ。当時、京大初のプロ野球選手になった田中英祐投手が在籍していたのですが、彼がいながらも勝ち点が取れない様子を漫画に反映しました。 ――なるほど。確かに甲子園だと描けないストーリーですね。 足立:実際に試合を観て、大学野球を描く方が「弱小チームが勝ちあがる」という話以外の野球漫画が描けそうだと感じましたね。あと大学野球は「人生を賭けた戦い」という側面もあります。「プロを目指すための最後の挑戦」といった、高校野球とは違う気持ちで挑む選手を描けたらいいなと思って描いていました。 ――「ノーステップ打法」という聞き慣れない打法も印象に残りました。これについては? 足立:主人公があの環境でどうしたら打てるかを考えた時に浮かびました。敢えて足を上げない特殊技的な。野球をやっている友人に確認しながら採用した感じです。でも大学生がノーステップでホームランを打てるかは正直どうなのか……(笑)。 ――そこだけ漫画的な表現というのは、ドラマティックでもあるのかなと。 足立:ただ僕はリアル思考なので、現実的な終わり方にできたらとは思いましたね。ノーステップ打法はロマンがありますが、最後は普通のフォームにするなど選択肢もあったかもしれません。 ――そのリアル思考は作画にも表れているのでしょうか。 足立:そうですね。ドキュメンタリー映画を観ているような質感で読んでもらえるような漫画を目指しています。だから極論ですが、そのキャラクターのモデルになる人の写真を撮って、それをトレースするくらいリアルな絵を描きたい。 でもそれは無理なので(笑)、僕の作画で出来る範囲で取り組んでます。『大学野球という戦場に立つ』に関してはバランスよく描けた気がしますね。 ――今後続編や関連作などを描く予定はないのでしょうか? 足立:直近で描く予定はないのですが、長期連載とかで描けたら面白そうです。あまり漫画にされていないテーマだと思うのでいつか取り組めたら。ちなみに次の連載は、20代前半から温めていたバンド漫画に決まりました。 自分の唯一の趣味がライブハウスに行くことなんですよ。好きなバンドは大阪の「それでも尚、未来に媚びる」。大好きすぎて、自分の作品『処暑』は彼らの曲名からタイトルを採っています。新しい連載作もぜひ読んでいただければ嬉しいです。
小池直也