「地方消滅」はイコール「観光消滅」…人手不足が加速する人気の観光都市が直面する厳しい現実
「地方消滅」はイコール「観光消滅」
筆者が観光都市、観光自治体と考える市町のうちのいくつかをピックアップして、若年女性の減少率と2020年の人口(国勢調査から)、ならびに2050年の予想人口を一覧にまとめた。 このうち、石川県加賀市は、山中、山代、片山津などの加賀温泉郷を抱える一大温泉都市で、2024年3月には、北陸新幹線の延伸により東京から乗り換えなしで市の玄関駅に降り立てるようになった。これからさらに観光客を迎えようと意気込む時期に、「消滅可能性自治体」と烙印を押されてしまったわけである。 ちなみに2024年元日に大震災に見舞われた能登半島では、中能登町以外のすべての自治体が「消滅可能性自治体」に分類されている。発表されたデータには地震の影響は含まれていないので、残念ながら消滅の可能性はこのデータ以上に高まるかもしれない。 高知県の土佐清水市は一般にはなじみのない都市名かもしれないが、四国最南端の足摺岬や日本初の海中公園(現在は「海域公園」と呼称)である竜串などを抱える観光都市である。しかし、すでに人口減が著しく、「市」であるにもかかわらず、2020年時点で1万2000人ほどにまで減っている。そのうえ、若年女性人口がその後30年で4分の1にまで減ると見込まれ、人口はわずか5000人程度になると予想されている。 観光客を迎えるには、当然のこととして多くの人手が必要となる。どんなに美しい景観があっても、その景観を保全したり、観光施設を運営したり、飲食店や土産物店を維持したりするには、その産業に従事する人が必要である。若年女性人口が5割以上減る自治体は、人口も当然ほぼ半減に近くなる。日々の暮らしを維持するだけでも大変なこうした自治体で、観光に割ける人材はどれくらい見込めるだろうか? 「地方消滅」はイコール「観光消滅」であるともいえそうな、冷酷な数字である。
路線バスの相次ぐ休止がニュースに
「人手不足」がまず取り沙汰されるのは、交通インフラの担い手たちである。コロナウイルスの収束による通勤通学や観光需要の復活の一方で、長期の需要停滞による離職の増加で、現在、全国各地で路線バスやタクシーの運転士不足が深刻化している。 大阪府南部の富田林市などを地盤とする「金剛バス」が2023年12月20日限りでバス事業から撤退し、全15路線を廃止した。このニュースは、大都市圏でさえ燃料費高騰による運行経費の増大や運転士不足により地域の足の確保がままならない実態を浮き彫りにしたと言える。 これはほんの一例に過ぎない。北海道では札幌駅を発着する郊外からのバス路線のうちのいくつかを近郊の地下鉄の駅止まりにして、中心部への乗り入れ路線を縮小し効率化を図ることとなった。長野市でも地元のバス会社が運転士不足のために特定の路線の廃止を発表するなど、地域のバスの苦境があらためてクローズアップされている。 この状況は、実際に運転士の長時間労働にメスを入れる労働規制の強化(いわゆる「2024年問題」)が実施された2024年4月の前後に、さらに深刻度が増した。人口が日本最大の「市」である横浜市でさえ、4月1日に一部減便を実施し、その新ダイヤがまだ定着しない同月22日にさらなる減便を発表している。働き手が多いはずの大都市圏でもバスのダイヤの確保は困難になっている。 さらに観光に直結する空港リムジンバスの運休も、目立つようになってきた。京浜急行バスは、2024年3月から、羽田空港と鎌倉・藤沢・箱根桃源台、甲府を結ぶ4路線を運休とした。羽田路線は、出張や帰省なども含め、広い意味では完全に観光路線であり、旅行者の足を奪う深刻な事態となっている。
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