ロシア政府系メディアの生放送に「あなたはだまされている」と乱入した女性がロシア保安当局に受けた「尋問」…その衝撃の内容とは
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第4回 『「この8年間プーチンは国民を洗脳してきた」...政府系メディアに乱入した女性が捜査官相手に吐いた反戦抗議の「納得の理由」』より続く
見えない話し相手
捜査官はわたしの後を、トイレのドアまで暗い廊下をついてきた。 「なんでついて来るんですか?」 「そういう決まりになっているんです。あなたが静脈をカットしないとも限りませんから……」 この捜査官はルビャンカ(ロシア連邦保安庁(FSB)の本部があるモスクワ中心部の地区。ロシア革命当初から治安・諜報機関が置かれ、「拷問、流刑、銃殺」などのイメージと結びつく。)の超インテリの取調官ではなく、国際政治問題にはまったく疎い、ごく普通の捜査官だった。彼の携帯はしょっちゅう鳴っていた。部屋に戻ると電話の向こう側で話す人の声が途切れ途切れに聞こえた。 「なぜこんなことを……、どう関わっているのか聞いてみろ。誰が手引きしたんだ……」 見えない話し相手は、スターラヤ広場やルビャンカの幹部だ。 「刑事事件か、あるいは行政事件か。どちらだと思います?」 捜査官がわたしにきいた。 「弁護士を呼んでください。約束したでしょう。弁護士に微妙なニュアンスを説明してもらいたいんです。残念ながらわたしは法律家ではありませんから」