牝馬三冠・デアリングタクト「母となった孝行娘に広がる明るい未来」【もうひとつの引退馬伝説】
おとなしく従順な馬が暴れ出した出来事とは
2020年の秋華賞を勝ち、史上初となる無敗での牝馬三冠を成し遂げたデアリングタクト。 2022年のジャパンカップ以降に休養し、復帰を目指していたが、残念ながら脚に故障が見つかり、2023年秋にターフに別れを告げた。 そして2024年の春から繁殖牝馬として、第2の馬生を過ごすために岡田スタッドに帰ってきた。 そんな名牝の現地での様子を、著名な競走馬の引退後の余生を追った『もうひとつの引退馬伝説~関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)から一部抜粋してお届けする。 無敗の三冠牝馬がママとなる――それだけに牧場としても大きな期待を寄せていたことだろう。繁殖牝馬となったデアリングタクトを担当することになった勝部浩平さんは当時をこう振り返った。 「前の担当者(渡邉薫さん)がすごくかわいがってくれていたので、引き継ぐ際に『大事にしてね』と言われましたよ(笑)。もちろん、みんなが期待している馬を担当するわけですから、私としては来る前から『頑張らないといけないな』と思ったし、同時に『大変だな』っていう気持ちもありました」 岡田スタッドにやってきたデアリングタクトだが、馬房内では「とにかくおとなしくて、何も手がかからない馬」というのが勝部さんの第一印象。 あまりに手がかからないために岡田スタッドに研修に来た若いスタッフでも手入れができるほど従順だったというが、それだけに初めての種付けの際のデアリングタクトの姿が今でも印象深いという。 「初めての相手ということでベンバトルを付けることになったので、繋養先のビッグレッドファームに連れていったんです。それでいざ種付けをするという時に……珍しく暴れ出したんですよ。普段はおとなしい馬だから驚きましたが、初めての種付けということでパニックになっていたのかもしれませんね」 繁殖牝馬が種付けに「怖い」という印象を持つことは少なくないという。種付けをする際には暗く狭いところに入れられ、後ろから種牡馬がやってくる。 それゆえそれが初めての経験となる牝馬は得てしてパニックに陥りやすいといわれているが、デアリングタクトも例外ではなかった。 初めての種付けを前にパニック状態になってしまったデアリングタクトだが……母としての初仕事は無事完遂できたのだろうか!?