現代アートに浸る百年古民家 福岡県朝倉市の「ギャラリー コバコ」
母屋を出て納屋をのぞくと、「猫としめ縄」をテーマにした映像が白壁に投影されていた。その壁の反対側では、猫に関する古本を展示・販売している。古本が並ぶ納屋にポツンと置かれた椅子。座っていいのだろうか――。この不思議な空間そのものが、一つのアート作品のようだった。
すぐ身近にアート
月ごとに変わる多彩な見せ方がコバコの魅力だ。「この人は、愛をどう表現するのだろう、その人の愛を見てみたい」という思いから開催したのは、「愛ってなんだろう」のタイトルをつけた展示。絵画や彫刻、映像でそれぞれの「愛」を描写した。椅子をテーマにしたときは、椅子にまつわる物語を紹介し、その美しさを考えた。そんな謎めいた展示を幾度も企画してきた。 「作品を集めたこの空間こそがコバコの世界観。住居の中に溶け込んだアートを感じてほしい」と話す。貸しギャラリーではあるが、秋重さんがふさわしくないと思う展示は断る。「お金ではなく、空間が大切」。静かな口調に強い意志がにじむ。
ここを訪れる人は、アート作品を鑑賞したり、歴史ある家屋のカフェでくつろいだり、それぞれの時間を自由に楽しむ。娘に勧められ、熊本県荒尾市から夫婦で足を運んだ女性(59)は「猫の作品と古い日本家屋の雰囲気がよく合って、思わぬ拾い物を見つけたみたい」と笑顔を見せた。
「現代アートって分からない」という声も聞く。「分からなくていい。分からんけれど一度のぞいてみようかな、と思ってもらえる場所になれば」と秋重さん。美術館でなくても、有名でなくても、素晴らしいと感じられる作品がある。「ちょっとした身近なものにきらめきや面白さを見つけられたら、それがアートなんじゃないかな」 多彩な表現を通して、様々な価値観を発信する――。「場所をいかしてアートの種まきをしている感じですね」と秋重さん。その種は、いろいろな刺激を養分にして、すくすくと成長しているようだ。
読売新聞