日本半導体に「千載一遇のチャンス」到来、ラピダスを批判する人が知っておくべき「技術の転換点」とは?
■ 「技術の転換点」だからこそチャンスがある ──半導体の微細化を進める上でGAA構造が主流となることは、どのような意味を持つのでしょうか。 小柴 半導体の製造を担うファウンドリーにとって「テクノロジーの転換点」を迎えることになり、競争環境が変わることを意味します。 ハイテク産業は非常に保守的な側面を持ちます。あるテクノロジーが使われ始めると、それを変えることは容易ではありません。しかし、そんな技術もやがて変わる時が訪れます。それがテクノロジーの転換点に直面したタイミングです。 半導体のプレーナー構造がFinFET構造へと移行する転換点では、世界に6社あった半導体企業が淘汰(とうた)され、対応できるのはインテル、サムスン、TSMCの3社だけとなりました。次の転換点がGAA構造を持つ2ナノ以降の半導体ですから、ここに日本の半導体が先行する他社と肩を並べるチャンスがあると考えています。 テクノロジーの転換点という意味では、もう一つ重要なトピックスがあります。それは、2027年ごろから量子コンピュータとスーパーコンピュータを組み合わせて使われるようになり、コンピューテーションが大きく変わる可能性が大きい、ということです。 量子コンピュータは、従来型のコンピュータの1億倍の速さでの超高速計算を可能としますが、その実現に2ナノ以降の半導体は必要不可欠です。だからこそ、量子コンピュータの活用の幅が広がるタイミングで、最先端半導体の需要は一層伸びていきます。 加えて、安全保障上における先端半導体の存在感も大きくなっていくでしょう。世界中で成長し続ける先端半導体の需要に対して、現在半導体製造をリードする3社だけではその需要に到底対応し切れません。だからこそ、ここに日本の半導体がブルーオーシャンを見出すチャンスがあると思っています。 ──新規参入するファウンドリーがこれらのチャンスを成果に結びつけるためには、何がポイントになるでしょうか。 小柴 先行しているTSMCのようなファウンドリーに学ぶことだと考えています。ファウンドリーの役割は「半導体製造受託」といわれますが、その本質は「サービス業」です。iPhone用の半導体を供給しているTSMCは、新モデルの製造の始まる2年ほど前から米アップルとさまざまな情報交換を行い、商品の設計段階からサポートしています。 ファウンドリーは「テクノロジーを先取りすれば市場シェアを広げられる」という単純なビジネスではありません。そして、「まじめに良い製品を作りされすれば売れる」という姿勢だけにこだわり過ぎてもいけません。顧客満足度を追求するTSMCの徹底したサービスの姿勢から学びつつ、次なるチャンスを掴む姿勢が大切です。
三上 佳大