堂本剛27年ぶり単独映画主演作 荻上直子監督が2年前からラブコール「堂本さんありきの企画」
吉岡里帆のコメントに感心「いいこと言うなぁと」
主人公を取り巻く人物も荻上監督作品らしく個性的。アパートの薄い壁を隔てた隣人・横山役は綾野剛。アパートの壁に穴を開け、くすぶっている自分にいら立っている。富裕層の搾取に対して、声を上げる元アシスタント役には吉岡里帆、ミャンマー出身のコンビニ店員役は実際にミャンマー出身の森崎ウィンが演じた。 「堂本さんと綾野さんは、とても仲良くなっていました。私はあまりリハーサルはやらず、現場で人物の気持ちの部分を話し合っていくことが多かったです。テイク数も多くはありません」 荻上監督作品は『バーバー吉野』(2003年)、『かもめ食堂』(06年)、『めがね』(07年)などオフビートなテンポにおかしみをにじませた独自の作風が魅力。近作『川っぺりムコリッタ』(22年)では下層の人々の営み、『波紋』(23年)では女性の自立と宗教問題など社会的なテーマにも挑戦してきた。作家性の変遷には何があったのか。 「外国の方からは『どんどん暗くなっていく』と言われましたが、確かにそうかもしれないと思ったりしています(笑)。『彼らが本気で編むときは、』(17年)を撮るまでの何年間が苦しかったんです。すごく撮りたいし、休んでいるつもりもないし、ずっと脚本も書き続けるんですけど、撮れなくて、悔しくて、悶々とした時期があったんです。最近でも、『川っぺりムコリッタ』は1度、流れたこともあって、原作があれば、映画を撮れるのかと思い、(原作となる)小説を書いたこともありました」 本作は、壁にぶつかっている人、悩みを持っている人が生きるヒントが詰まっている。 「堂本さんも『自分でいられるヒントがあるんじゃないか』とおっしゃっていました。堂本さんのラジオ番組には、リスナーからの悩みの投稿がたくさんあるのですが、私には、彼がみなさんの悩みを吸収してあげているように見えるんです。吉岡里帆さんは、『タイトルと裏腹にまるく収まろう、まるく関わり合おう、まるく落ち着こう、そういった事とは正反対の“まる”からの脱却、逸脱、と良い意味の裏切りを秘めた作品です』とコメントしてくださったんですが、いいこと言うなぁと思いました」。映画は二重丸の出来栄え。今後の荻上監督作にも期待したい。 □荻上直子(おぎがみ・なおこ)1972年2月15日、千葉県出身。94年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画製作を学び、2000年に帰国。04年に劇場デビュー作『バーバー吉野』でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞受賞。06年『かもめ食堂』が単館規模の公開ながら大ヒットし拡大公開。北欧ブームの火付け役となった。以後ヒット作を飛ばし、17年に『彼らが本気で編むときは、』で日本初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞他、受賞多数。近年の監督作には『川っぺりムコリッタ』(22)、第33回日本映画批評家大賞・監督賞を受賞した『波紋』(23)などがある。
平辻哲也