自由で多様 北欧の価値観映す「リトル・エッラ」
こんなにも平和な世界は、現実に存在するのだろうか。幸せな気持ちになると同時に、考えさせられた。なぜ北欧ではこのような物語が生まれるのだろう、と。 【動画】友達なんていらないって思っていたけど…、9歳少女の感動成長物語「リトル・エッラ」予告編 スウェーデンの絵本作家、ピア・リンデンバウムの「リトルズラタンと大好きなおじさん」(日本語未訳)を原作に、ノルウェー出身のクリスティアン・ロー監督が手掛けた「リトル・エッラ」。友だちをつくるのが苦手な少女・エッラは、サッカーが大好きだ。唯一の親友であるおじのトミーは、スウェーデンの元サッカー選手、ズラタン・イブラヒモビッチに例えて「ミニ・ズラタン」と呼ぶ。だがある日、トミーの家に恋人のスティーブがやってくる。エッラはトミーを奪われるのではないかと不安になり、スティーブを追い出すためにいたずらを仕掛けていく……。
同性愛のカップルも自然に描く
トミーとスティーブは同性同士のカップル。ロー監督は原作で2人の愛が自然に描かれている点を気に入ったという。「トミーが同性を愛することは偶発的なことで、エッラにとって彼の恋人が男性か女性かは関係ない。愛は愛なのです」と語る。 物語の終盤、トミーがひざまずき、婚約指輪を取り出すと、エッラがそれをスティーブの左手の薬指につけるシーンが印象的だった。スウェーデンでは2009年から同性婚が法制化されており、劇中でも周囲の人々はトミーとスティーブを当たり前のように祝福している。 日本でも近年、同性愛をテーマにした作品は増えてきている。一方、これまで私が見てきた作品は、社会に理解されない苦悩を描くものが多かった。今の日本で今作は「同性愛の自然な描き方」に注目する向きがあるだろう。しかし北欧ではそれすらも気にせず、当たり前のこととして受け入れられているのだろうか。
少数派も当たり前の存在として
北欧5カ国では、いずれも同性婚が認められており、ロー監督は積み重ねてきた教育の意味を指摘する。「北欧では小学生の頃からLGBTQについて学び、同性愛についてもかなりオープンになっています。特に若い観客にとっては、とても自然なこととして受け止められているのではないでしょうか」 そして今作では同性愛だけではなく、周囲となじむのが苦手なエッラやいじめを経験した少年など、特別視されがちなキャラクターが、ただ一人の人間として描かれ、そこに偏見や差別は存在しない。過去にいじめに遭い、エッラと同じ学校に転校してきた少年、オットーは原作にはないキャラクター。ロー監督も子どもの頃にいじめを受けたことがあり、孤独を感じた経験を投影したという。