「刃物持ってこい!」「指飛ばせ!」そして90歳女性にバールを振り下ろし… 「ルフィ事件」19歳実行犯が明かした戦慄の犯行現場
犯行を1日延期
中西被告は一連の事件において罪状認否で「強盗部分のみ認める」と述べており、Aさん死亡に関わる行為については否認していた。一方で、実行犯リーダー、永田陸人は全てを認めている。彼は狛江の事件だけでなく、同じグループが起こした広島など他県の広域強盗事件にも実行犯として関わっており、10月18日から裁判員裁判が行われている。これに先立って中西被告の公判にも証人として出廷し、犯行を1日延期した理由を語った。 「私たちは段ボール箱や伝票などを準備して、実行のために用意された『突撃車』に乗り換えAさん宅の周辺を下見しました。下見の段階でAさん宅の人数を認識していたところ、何周か家の周りを回って、突入しようとした際、車が一台なくなっていた。人がいないかもしれない。強盗ができないのでやめよう、となりました。指示役のキムからは『空き巣でもいいから行け』と言われましたが、私がキムと話した結果、空き巣に入ってもバールを持っていないので金庫を開けられない、意味がないとなり、翌日に延期することになりました」(永田の証言) 延期を進言した永田はその後、ホームセンターでバールを購入。メンバーらは翌日の木曜日の昼時に事件を起こした。
バールで殴打
〈落ち着いて、迅速に的確にお願いします〉 「キム」がテレグラムにこう送信した10分後、中西被告と野村は宅配業者を装ってインターフォンを押し、ドアが開いたところで、永田と加藤が後ろから突入した。在宅していたAさんを縛り、脅しながら金の在処を聞き出し、金目のものを奪うために家中を捜索するという段取りである。 ところが実行犯らは何度問い詰めても、Aさんから金の在処を聞き出すことができない。テレグラムを通話状態にして、イヤホンを装着していたメンバーらは、常時、指示役からの連絡を受けていたが、野村と通話状態にあった「ミツハシ(改名前ルフィ)」の追い込みは凄まじかったと永田は語る。 「金の在処を吐かせようと、Aさんを蹴ったり踏んづけたりしましたが、Aさんは何もおっしゃりませんでした。そのタイミングあたりで、私もそうですが、指示役も焦ってたようで、ミツハシが怒鳴り散らかして『指飛ばせ!』とか『刃物持って来い!』とか怒鳴っていたので、野村にバールを持ってくるように指示して『やれ』と言いました」 こうして野村にAさんをバールで殴打させた永田は、みずからもAさんに暴力を振るう。脅しながら金の在処を問いただすも、Aさんが答えなかったため、暴力が続けられたという。しかし永田には“本当に大金の在処を知るという「ターゲット」がAさんなのか”という疑問が湧いてきたという。中西被告や野村は「金は絶対にある」と言い張るが、家中を捜索しても、現金は見つからない。そのため永田はAさんを撮影し、指示役にデータを送信したところ、指示役からは「別人だ」との返答があった。 彼らの杜撰極まりない犯行によりAさんは命を奪われた。最終的に4人は現金を発見することができず、指輪1つ、腕時計3つをつかみ取り現場から逃走した。これらの盗品はのちに逮捕の決め手となった。 永田はこの翌日、逮捕されることになる。これは、直後に起こしたさらに杜撰な別件犯行が原因だった。 【後編】では、実行犯が犯行後、被害女性について述べた非道な言葉と、逮捕の瞬間を詳らかにする。 高橋ユキ(たかはし・ゆき) ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。 デイリー新潮編集部
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