「働き過ぎ」で崩した心と体のバランス。滝藤賢一が40代で見つけた“無心”になれる時間
無理してでも一人の時間を作る――仕事を忘れられる時間が大切
――心と体のバランスを整えるのに、一人の時間が必要ということですね。 滝藤賢一: 一人の時間なんていらないと思ってたんですけどね。それがないとバランスが崩れると気づいてからは、趣味や一人の時間は、無理してでも作るようにしています。現場に行けば、多くの方がいらっしやるし、家には家族がいるので、一人になろうとしたらトイレか車しかない。たとえ睡眠時間が2、3時間しかなくても、一人の時間を作るためだけに自分で車を運転して現場に向かってた時期もありましたからね(笑)。仕事のことを忘れられる時間が大切なんだと思います。 今はゆっくりとしたペースでお仕事をさせてもらっているので、心も身体も余裕が出来てきました。仕事の合間に、少しでも時間があれば、友達の花屋や仲が良い服屋に顔を出して趣味の時間を作るようにしています。家にいる時は、ずっと植物の植え替えをしていますね。無心になれて良いんですよ。仕事のことを考えない時間を作ることで、かえってセリフ覚えも良くなりましたからね。あとは、一人の時間って家族の時間と紐づいているように思います。子どもの学校や習い事の送り迎えの合間とかですね。子どもが通っているクラブチームに送ったあと、2時間待たないといけないので、その時間でスーパー銭湯に行ってゆっくり休んだり、少し場所を借りて英会話やセリフ覚えをしたりしてます。僕が子どもを送っていけば、奥さんも一人の時間ができる。奥さんにも一人の時間が必要で、お互いバランスをとっていかないといけないと思うんですよね。二人とも心のゆとりが出来れば、お互いに優しくなれるし、子供との接し方も変わってくる気がするんです。なんなら奥さんのほうが大変。ずっと4人の子どもと一緒に家にいるわけですから。
植物は家の中に600以上も。こういう時期だから「全力で楽しもう」と努力してる
――趣味には相当なお金と時間をかけているのですか? 滝藤賢一: 自分ではそんなに趣味に「ハマっている」感覚ではないんです。植物もハマっているけど、実はそんなに詳しくないですからね。名前とか分かりませんから。僕はもう楽しくて仕方がないだけ。心が躍って、ときめいているうちに、気づいたら家に600以上も植物が置いてあった(笑)。「ずっとこれを続けないと……」って義務や惰性になったら、もう趣味じゃない気がする。ときめかないと趣味じゃないですから。 趣味の時間を作ることで、作品に向かう姿勢も変わりました。少し言い方が悪いかもしれないですけど、今までの僕は、とにかくセリフを覚えてしゃべるというスタンスじゃないと、撮影に間に合わなかったんです。でも今は、一つの作品に対して時間をかけて向き合えるようになって、とても充実しています。本来こうあるべきなんでしょうね。でも、今の自分があるのは、あのがむしゃらに働いた10年があったからかなと思います。 僕はよく「人生を全力で楽しんでいてうらやましい」なんて言われるんですけど、実は全力で楽しもうと努力してるんです(笑)。こういう時期だから、世の中には苦しい人もたくさんいらっしゃいますよね。だからこそ、馬鹿みたいに明るく笑顔で生きようと思って。「何が起きてもへっちゃらなんだぞ」って姿を僕は見せていきたいし、見せないといけないと勝手に自分で思っている。40歳を過ぎて、俳優としても父親としてもそうした責任から逃げちゃいけないなと思うようになりました。 ----- 滝藤賢一 俳優。1976年、愛知県生まれ。舞台を中心に活動したのち、2008年に出演した映画『クライマーズ・ハイ』で一躍脚光を浴びる。以降、映画やドラマ、CM等で幅広く活躍中。2021年9月に、自身の私服や着こなしを紹介するスタイルブック『服と賢一 滝藤賢一の「私服」着こなし218』(主婦と生活社)を発売。 文・早川大輝 制作協力:Viibar