若い女性の地方離れ、そこはかとなく嫌う価値観…家族・働き方が揺れている
THE PAGE連載「人口減少時代」では、今後長く続く日本の人口減少期について考えてきました。人口が増えない最も大きな要因は少子化ですが、その背景に女性の晩婚化、非婚化が挙げられています。国は一億総活躍社会や働き方改革で、女性が仕事と育児のどちらも実現できる社会を目指そうとしています。一方、連載では、若い女性の地方からの流出が深刻になっていることもうかがえました。 歴史人口学を専門とする静岡県立大学長、鬼頭宏氏は人口減少時代における女性の活躍と働き方についてどのようにみるのでしょうか。話をうかがいました。
女性の流出の理由を考えることは難しい
連載「人口減少時代」の中で高学歴女性の就職による東京圏への移動が顕在化していることが指摘されていた。 ── いろんな地方を回って話を聞いているわけではないので、全体像はわからないけれども、地方圏は、古い言葉で言えば男尊女卑。女性があまり、主体的に社会の担い手になっていこうと自覚していなかったり、特に男性が、今までの役割分担を押し付けてくることが、強いと思います。そうしたことは、若い女性から、そこはかとなく嫌われている。そんな言い方が正しいんじゃないかと思います。 例えば相撲の土俵の上に女性が登れないとか、地方の議員選に女性は出ないほうがいいとか。それだったら、やりたいことがのびのびできる都市部で力を発揮したいという人が多いだろうし、積極的な人にとってはなおさらでしょう。 これからの家族の形態が、どんなふうになればいいのかということもあると思います。多く稼げる方が稼げばいい、という社会。夫が専業主夫で、妻が外で働くことがあってもいいかもしれない。特に女性は、亭主はいらないけれど子供はほしい人が結構いると聞きますから、極端に言えば、レズビアンのカップルで子供を持つ人がいたり、精子提供を受けたり。今は、ちょうど変化が起きているところで、今までなかったそうした形態が増えていくのでしょう。 ただ、その延長線上はどうなるかといえば、根拠は全くないですが、核家族であれ、三世代同居の直系家族制度であれ、今ある家族の形態にそこそこは安定していく、収斂していくのではないか。やはり安定した家族を持ちたいという人が主流なんだろうとは思います。 そしてそれぞれの地域や国の特性を残しながら、家族の形態は安定していく。ただその中では、多様性がもっと高まり、今まで表に出なかったようなものが堂々と出てくるということは起きてくるのではという気持ちがあります。住まい方も変わるかもしれない。一つの住宅を二世帯で割って使ったり、近居、あるいは同居だが入り口は別々、そういう世帯になっていくのかもしれない。 ただ、どのくらい今現在動きがあるのか。国勢調査は実態に追いついていってないんじゃないかなと思います。かつて農家は一緒に仕事もしますし、一体化した世帯、家族と言えたでしょうけど、今はもう違います。日本では、同じ屋根の下だけれども、親と子の世代が食事以外では全く別の生活をしていたり、中には、外で菓子パンを食べたり、食事をしちゃう中学生がいて、それすら別行動だったりする。だけど、統計的には立派に家族であるわけですよ。厳密には同居していないけれども、孫と祖父母が一緒によく遊んだりするとか、そんなパターンがどれくらいあるのか。今、非常に多様化していて、捉えにくいのかな、と思いますね。 では、規範的な家族とはどうなのか。「いい制度」とまでは言わないけれども、少なくとも現在も核家族の制度を基準にしているだろうし、戸籍が残っている以上、戸籍上の家族、血筋を中心に単位として考えるというのは、非常に強い規範になっているのかなと思います。いま始まった道徳教育でも、その辺りが強く訴えられていると思いますが、思うようにいくのかどうか。 従来の家族、世帯という枠に当てはめようとすると、はみ出す部分が大きくなってきているし、中核的な親子だと思ってみていたものが、実は薄いつながりだったりしている。夫婦自体そうかもしれないですね。もうちょっと自由な形態でもいいのかもしれないし、非常に揺れているところだと思います。 国は資産を把握する目的があって個人カードを導入したのでしょうが、結果的には、世帯や戸籍、住民基本台帳ではとらえきれない部分を、個別に国家に結びつけようとする、捉えようとする、そういう活用の動きになるのではないでしょうか。ある意味では国も、家族などから離れた活動を認めていく、認めざるをえないということなんだろうと思います。 個人カードで所得や税金を国に把握されるのは気持ちよくはないですけれども、国が国民や外国人、個人を認めていく別の観点からすれば、今までの住民基本台帳に代わるものとして、もっといろんな面で重視されてくるようになる。そうすれば、家族や世帯に対する考え方が変わるきっかけになるのかもしれないな、という気はします。