「制約や違和感はあったほうがいい」 写真家・瀧本幹也に訊く アイデアを生み出す“方程式”
写真を始めたころに感じていたものと変わらない高揚感
瀧本さんの広告表現には、あえて手間のかかる方法で撮られたものが多い。CGを使ったり加工・合成すれば済みそうなところをそうはせず、現実に根ざした一枚の写真、一連の映像でイメージを生み出そうと、とことんこだわっていく。 そこまでする理由も、より人の心に刺さるビジュアルを探究しているからということになるのか。 「後からイメージを直したり切り貼りしたりすることをやり始めると、写真を撮ることが単なる作業となり、味気なくなってしまいます。効率はいいだろうけど、やっていて楽しくはない。 写真は僕にとって、とにかく楽しいもの。撮影しているときの高揚感はいまも毎回あって、それは10歳で写真を始めたころに感じていたものと変わりません。撮っているときの楽しさをずっと味わっていたいから写真をやっているのであって、仕事だからと効率だけ求めるというのは、僕には考えられないです」 ひとつ実例を挙げてもらった。本書にも収載されている「UNITED ARROWS green label relaxing」。 「この広告写真では、床の光の部分がブランド・ロゴのかたちになっています。これをリアルに撮影しようとすると、上方からスポットライトで照明を当てることとなり、服に影ができてしまう。洋服の広告なのにそれではまずい。 どうしようかとあれこれ考えた末に出した結論は、照明で影をつくらないこと。この光のところ、じつは背景にペイントを施してあります。薄く塗りを重ねて騙し絵のようにして、カメラのレンズ越しに見るとちょうどロゴのかたちに見えるよう調整しているのです。光でロゴをつくることと柔らかい光で服をきれいに写すことを両立させようと、あれこれ考えた結果です。 ふつうなら『光の部分は合成すればいいか』となるかもしれないけど、それでは写真表現としてきっと弱くなってしまう。なんとか表現として成立させつつ、問題点を解決する方策を必死に編み出しました。そう考えると、制約や違和感というのはあったほうがいいものですね。そこからアイデアが動き出すのですから」 Mikiya Takimoto Works 1998-2023 定価 9,900円(税込) 青幻舎 瀧本幹也(たきもと・みきや) 1974年生まれ。広告写真やCM映像をはじめ国内外での作品発表や出版など幅広く活動を続ける。写真と映像で培った豊富な経験と表現者としての視点を見いだされ、是枝裕和監督から映画撮影を任され『そして父になる』、『海街diary』、『三度目の殺人』と独自の映像世界をつくり出している。代表作に、『BAUHAUS DESSAU ∴ MIKIYA TAKIMOTO』、『SIGHTSEEING』、『LOUIS VUITTON FOREST』、『LAND SPACE』のほか、『Le Corbusier』、『CROSSOVER』など。 『Mikiya Takimoto Works 1998-2023』刊行記念トークイベント 瀧本幹也×正親篤 日程 2024年4月6日(土) 時間 16:30~18:00 開場 16:00~ 料金 1,540円(税込) 定員 100名 会場 青山ブックセンター本店 大教室
山内 宏泰