英誌が考える“ドラえもんの国”日本が「AI開発競争で恐れること」
ロボットと人間が友好関係を築くマンガ『ドラえもん』が生まれた日本は、他国と比べてAIに対する危機感が低いと英誌「エコノミスト」は指摘。日本人がAIの普及で恐れているのは失業や著作権侵害ではなく、もっと別な点にあると論じている。 【画像】英誌が考える“ドラえもんの国”日本が「AI開発競争で恐れること」 AI(人工知能)と聞いて、米国人が思い浮かべるものは何だろう? 『ターミネーター』シリーズの恐ろしいサイボーグや、『2001年宇宙の旅』で乗員を排除しようと企んだコンピュータのHAL 9000だろうか。 では、日本人が思いつくものは? それは、お助けロボットのドラえもんだろう。IT業界の人間もこの猫型ロボットをこよなく愛する日本は、AIビジネスの可能性に満ちた国だと言える。 ドラえもんの存在は、日本人のAIに対する考え方についての示唆を与えてくれる。 AIを警戒している日本人は少ない。世界ではおよそ半数の人が、AI関連の製品・サービスに不安を感じており、特に米国ではその割合は64%に上る。だが日本のそれは25%で、この数字は市場調査企業イプソスが2024年に調べた32ヵ国のなかで最も少ない。 日本では、AIが人類を破滅させると考える人もほとんどいない。AIによって未来の危機が増すと考える日本人の割合はわずか12%で、これはカナダのトロント大学が2023年に調査した21ヵ国のなかで2番目に低い。一方、米国人の36%が未来のAI社会を恐れている。 対話型生成AIサービスChatGPTを開発したOpenAIのサム・アルトマンCEOは、2023年に日本を訪れた際、次のように発言している。 「日本には、人と機械が共生してきた長い歴史があります。だからこそ、新しいテクノロジーを受け入れる土壌が整っているのでしょう」 同社は東京に、アジア初となるオフィスを構えた。
「世界でいちばんAIフレンドリーな国」
日本企業の経営者は、自国をAIにオープンな国だと考えている。少子高齢化が進む日本では、AIに仕事を奪われることに対する危機感は薄い。また現状、AIモデルの学習に許諾をとることなく著作物を使用しても違法にはならない。 与党・自民党は、日本が「世界でいちばんAIフレンドリーな国」になることを目指しており、2024年春にはAIを使って岸田文雄首相(当時)のポスターを制作した。このポスターには、「経済再生 実感をあなたに。」というスローガンが添えられていた(残念なことに、この目標は実現はしなかったが)。 AIの活用例も少しずつ増えている。建設業界では現場での作業効率を上げるために使われ、IT業界の投資家は日本が得意とするハードウェアとAIを融合させたイノベーションが生まれることを期待する。また神奈川県横須賀市ではChatGPTを導入して以来、職員の生産性が大幅に向上したという。 東京都はAIを火災検知に活用し、消防活動に至るまでの時間短縮を試みる。2024年に芥川賞に輝いた作家の九段理江は、受賞作『東京都同情塔』(新潮社)の執筆にChatGPTを使ったことを公表している。九段の発言は物議を醸したが、彼女が賞を失うことはなかった。 日本社会はAIに寛容だ。だが、開発や普及に関しては遅れている。ソフトバンクグループの会長兼社長で、日本屈指の投資家でもある孫正義は、自国が世界のトレンドに乗り遅れていると長年にわたり警告している。
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