ANA、地方空港に貨物専用機。大型機で装置取り込み
全日本空輸(ANA)は半導体関連の大型装置の輸出入需要を取り込むべく、貨物専用機の就航路線として地方空港を視野に入れている。3月29日には、至近に台湾半導体大手TSMCが進出する熊本空港で大型貨物機ボーイング777Fを試験運航。これまで貨物専用機の就航がなかった同空港で、国際貨物定期便の運航を検討している。半導体産業を巡っては北海道などでも大型の工場建設が進む。ANAは熊本以外の地方空港でも、需要に応じて貨物専用機の運航を検討していく考えだ。 今回、ANAは熊本空港での試験運航に大型機の777Fを選ぶことで、半導体関連の大型装置を取り扱いたい意図を示した。大型装置は、「メインデッキ」と呼ばれる、機体上部の貨物室の天井が高く、貨物を積み降ろすドアも大きい大型貨物機でしか運べない。 半導体関連は製品・装置とも繊細な荷役が要求されるケースが多く、航空輸送のニーズも飛躍的に高まりそうだ。 ANAグループの貨物事業会社ANAカーゴで半導体産業を担当する渡部剛課長は、「熊本は今後、半導体産業の集積が進むことで、半導体製品だけでなく、将来の更新需要も含めた設備輸送が長期的に発生する。大型貨物機を恒常的に運航できる市場規模が見込める」と期待を込める。 ■受け入れ体制整備 日本ではこれまで、貨物専用機の運航が基本的に国際線しかなく、その大半が成田と関西、中部を発着している。このため、地方空港の多くは貨物専用機の受け入れ体制がなく、国際貨物を取り扱うための通関や保税関連の体制も脆弱(ぜいじゃく)だ。 ANAは今回の試験運航に先立ち、貨物便の就航がない熊本空港でソフト・ハードの両面の整備に着手した。昨年には、空港上屋内の保税エリアを拡大するとともに輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS)を導入して遠隔通関が可能な体制を確保。羽田空港から貨物専用機に貨物を積み込むための荷役機材「メインデッキローダー」を持ち込み、当面は熊本空港に常備する予定だ。 ソフト面では成田から熟練のスタッフが入り、現地の荷役を委託する九州産交ツーリズムのスタッフに貨物専用機を取り扱うノウハウを伝授して今後の定期便化に備える。半導体関連を含む大型装置の取り扱いには、以前から専用の輸送サービス「PRIOセンシティブ」を提供している。 熊本空港の国際線は台湾・香港系などが小型の旅客機を飛ばすのみで貨物の輸送力は限られる。ANAは、熊本空港に週1―2便で定期貨物便を運航したい考え。ANAが国際旅客・貨物便を多く運航する成田を経由することで、欧米やアジアの主要空港とつなぐ。 ■24年問題で航空選択 熊本空港の場合、これまでも半導体の集積地として航空貨物の需要はあったが、通常、国際線や貨物便が充実する関西、成田に陸送されていた。近年では北九州空港に貨物専用機が乗り入れて国際貨物便も運航されるが、多くは陸送が選ばれる。 4月からトラックドライバーの労働時間規制が強化され、荷主・物流事業者とも、物流の「2024年問題」への対応を本格化している。トラックによる長距離輸送が困難になるため、熊本に限らず、地方からの国内・国際輸送で航空が従来よりも有力な選択肢になる。 ANAは777Fを2機、中型の767Fを9機の計11機の貨物専用機を保有。今後は、グループ化を予定する日本貨物航空(NCA)の747Fも加わる。28年には自社機で777―8Fをさらに2機導入予定で、半導体装置の輸送に適した大型機のラインアップが強化される。 渡部氏は、「今後は北海道の新千歳などの地方空港でも貨物専用機の引き合いが寄せられる可能性がある」と話す。新千歳空港は、至近で先端半導体の国産化を目指すラピダスが半導体工場を稼働させる。同空港でも半導体関連の製品・装置の輸送需要が見込まれ、貨物定期便の運航がない点は熊本空港と似通う。熊本空港で培った貨物便の定期化に向けた取り組みを生かし、地方空港での定期貨物便の就航を検討していく。
日本海事新聞社