時価2000万円以上!盗難されたスカイライン「奇跡の発見」の陰で目撃者が激怒した「警察の怠慢」
盗難車の多くは海外へ不正輸出されている
今年1月、20代の外国人観光客がレンタカーで借りていたスカイラインR34GT-Rが盗まれた。千葉県野田市内に本社を構える「おもしろレンタカー」で1泊2日の予定で借り、ホテルに駐車。1月31日に窃盗されたことに気づいた。時価2000万円以上で取引される人気の旧車スポーツカーを盗まれたレンタカー会社社長の齊藤隆文さんはすぐに野田警察署に盗難の被害届を出し、SNSで拡散。しかしこのほど、紆余曲折を経て奇跡的に発見され、筆者は横浜港から横浜山手署で齊藤社長に渡される瞬間の撮影に成功した。齊藤社長はこう明かす。 戻ってきたことはほっとしたが……損傷が激しいスカイラインの内部写真 「盗まれてから時間がかなり経過していたこともあり半ば諦めておりましたので、大変嬉しい反面、盗難に遭われた沢山の方が車両の発見に至っておられないと聞いておりますので、本当に運が良かったのだなと思います。他の盗難被害者の方のことを思うと苦しみを知っているだけに喜んでばかりはいられません。また返却された車両を見ると、内装や、ガラス、ブレーキ等、強引に引きちぎったり、破損させたり、何の権利があって他人が大切にしている物をこういう風に扱えるのか?と思うようななまなましい姿で返却されましたので、悲しみとともに非常にもどかしい気持ちになります」 盗まれた1月31日の夜、齊藤社長が拡散したSNSを、野田市近郊在住のクルマ好きのKさんが見て、盗まれたスカイラインを偶然、目撃。すぐに愛車で追跡をはじめ、5~6㎞追いかけたが、最後は窃盗犯が運転するスカイラインが赤信号を無視して交差点を突破したためそこで見失い追跡を断念した。 Kさんはすぐに110番通報したが、このあとの警察の対応は信じがたいものであった。Kさんは待ち合わせ場所を警察と確認してパトカーの到着を待ったものの、約束したセブン-イレブン野田目吹店で1時間近く待ったにもかかわらず、パトカーは現場に現れなかったという。後日、Kさんが野田署になぜ来なかったのか聞いたところ…信じられない答えが返ってきた。 「現場には行きました。山田うどんの駐車場です。でもKさんがいなかったので帰りました」 そもそもKさんは110番通報で待ち合わせ場所を決めた際、「山田うどんではなくセブン-イレブン」とはっきり伝えている。山田うどんに行ってKさんがいないのならば、なぜKさんに確認の連絡を取らなかったのか。「著しく危機感が欠けている」「怠慢」と言われても仕方がないだろう。Kさんが目撃した際に野田署がきちんと対応していれば、犯人を捕まえられたのでは…と関係者全員、野田署の対応に憤慨したのである。 納得できないKさんは野田署に真相をたずねたが、「110番通報時の録音など調べるには1か月以上かかる」といわれている。すでに1か月半経過しているが野田署からの回答は何も届いていない。 盗難されて2週間が経過した2月半ばに、筆者は現場を訪れて目撃者のKさんとともに追跡したルートをたどったりもした。警察から何一つ連絡はなく目撃事例もなくなり、関係者の間にはあきらめムードが漂い始めていたが、2月20日、事態は急変した。齊藤社長のもとに横浜山手署から電話が入り、盗まれたスカイラインが横浜港の保税区域にあるコンテナの中から発見されたという。 まさにコンテナに入れられて不正輸出される直前での発見となったわけだが、警察によると「輸出関連の書類に不審な点があったためX線検査装置に入れたところ、コンテナの中から2台のスカイラインが発見された」とのことであった。 これはまさに奇跡である。というのも、コンテナごと入って検査ができる大型X線装置は全国13港に16台が設置されているが、’23年に全国の港で摘発された乗用車の盗難車両はわずか5台。’22年にいたっては1台しかなかった。年間6000台近くが盗まれ、その多くが海外に送られる現状において、水際で摘発できている盗難車が年間数台というのは、あまりにも少ない。また解体されたパーツも大量に不正輸出されているはずだが、’23年の摘発はわずか20品だった。 理由は明白だ。検査の簡略化が進み、X線検査はすべてのコンテナに対して行われるわけではないからだ。事情に詳しい輸出業者のAさんが実情を話してくれた。 「コンテナターミナルがメガターミナル化する一方で検査場はそのまま。つまり、コンテナターミナルの規模が、税関のキャパシティを超えているんです。従来なら怪しいシッパー(輸出業者)があれば税関検査してきたコンテナターミナルの取扱量が、従来の数倍になっているため、現実的には捌ききれません。 今回、GT-Rが奇跡的に見つかったのは恐らく、ジェトロが発行するシッパーコード自体、これまであまり実績がなかったか、添付する書類や写真が不自然だった、とかの理由で『念のためX線検査にかけよう』となったのでしょう」 警察庁生活安全課の発表によると、’23年の自動車盗難の認知件数が最も多かったのは今回の盗難現場となった千葉県だ。検挙率も全国平均43%のところ、なんと25.5%にとどまった。4台のうち3台は検挙できず窃盗犯の思うままに換金されたり密輸されたりしていることになる。盗難現場となった野田市には「USS東京」という国内最大級のオートオークション(以下AA)会場があり、多くの外国人業者がAA会場の近くに解体ヤードを構えている。その数は100ヵ所以上(野田市内)といわれている。なお、千葉県内のヤード数は全国の1/4を占めるほど集中している。 視野を広げてみると、自動車本体の盗難数は、’00年前後の年間6万台をピークに激減。’20~’21年には5000台前半とこの20年で最低と改善傾向にあった。しかし、その後はじわじわと増えており’23年には5762台にまで増加し、この傾向は今後も続くと思われる。 海外では、レクサスやランドクルーザーなどの高級車はもちろん、スカイラインやシビック、シルビア、RX-7などの日本製旧車スポーツカーの人気が異常なほど高い。そしてこれらの日本車は防盗性能が低い。旧車スポーツカーはドア解錠、キーシリンダー破壊といった昔ながらの方法で簡単に盗めてしまう。レクサス、ランドクルーザー、アルファードなど最新車種は「CANインベーダー」や「リレーアタック」などの手口で専用の機械を経由すれば大した知識がなくてもわずか数分で解錠、エンジン始動が可能。純正セキュリティは全く役に立たないのだ。 盗難台数は増加しているのに、警察の検挙率は低く、税関は甘いザル検査のままだ。効果的な防盗対策をしている車はごくわずかで、世界的人気の車種が無防備にゴロゴロしていて、盗難して高値で売れる。ネットオークションで見つけても、運営会社の方針により盗難車が追跡されることもまずない。そして万が一逮捕されて裁判になったとしても、自動車盗難の罪は非常に軽い。 たとえば’06年に1500台、約20億円という大規模な自動車窃盗事件のリーダーとして逮捕され、収監歴があった前科6犯の人物は、’22年春に国産旧車スポーツカー数台を盗み、懲役5年の判決を受けて服役中。再犯を重ね、被害額20億円もの窃盗事件でも、せいぜい数年で出所できる罪の軽さなのだ。 自動車窃盗団にとってこんなラクな国は日本以外にはなく、「盗難車天国」という有り難くない“あだ名”がついている。今回、たまたまスカイラインは見つかったが、「目撃者と待ち合わせした場所に来ない」という警察の怠慢や税関でのザル検査が続く限り、国内の盗難被害は増え続けるだろう。
取材・文:加藤久美子
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