大企業の利権を守るためにEV化で後れを取った日本の代償 中国に全て奪われ「産業国家」が没落する日 古賀茂明
■中国ではすでに空飛ぶ車も商用化へ 空飛ぶクルマ市場における中国メーカーの躍進にもまたEV化の効果が貢献している。空飛ぶクルマには、高いドローン技術も重要だが、同時に電池の性能が生命線だ。電池で世界を制した中国は、今や空飛ぶクルマの商用化でも日本のはるか先を行く。 すでに型式証明と耐空証明を取得していたイーハン社が、4月には生産許可証まで取得して量産段階に入った。EV新興御三家の一角、小鵬汽車も今年中の発売を計画中だというから驚きだ。 中国では政府や自治体をあげて、低空経済(空飛ぶクルマやドローンなどによる乗客・貨物輸送などの低空飛行活動によって関連分野の発展をもたらす経済形態)の発展を目指している。来年の大阪・関西万博でのデモ飛行程度しか見通せない日本とは比べ物にならない。 さらに、空飛ぶクルマの技術は軍事転用も可能だということも忘れてはならない。 電池の高速充電技術やEVの自動運転技術を活かしてBYDがモノレール市場に参入し始めた。安価で、1回の充電で200キロメートルの走行が可能で、しかも急速充電性能が高い自社製電池やEVで培った自動運転技術が武器だ。しかも、新製品は従来型より建設コストが3~6割安い。ブラジルで受注に成功し、今後インドやアフリカに攻勢をかける。
■EV化を抑制した日本の未来 以上からわかるのは、中国のEV化が、エネルギー政策や幅広い交通政策と一体化し、さらに関連のエコシステムを形成するという政府の明確な意図をもって進められてきたということだ。大きな方向性が民間企業にも共有されることで、関連する広い分野の産業で、思い切った投資が進み、さらにその成果を使った新分野での投資も誘発するという拡大好循環が生まれている。 今や、産業の大半の分野にその効果が広がり始めたといっても良いだろう。 そして、産業だけでなく、軍事分野への活用も確実に進むはずだ。 一方、日本では、EV化を抑制したために、関連分野の発展を遅らせた。今頃になって後追いしようとするが、古い分野に固執しながらの中途半端なものだ。このまま行けば、自動車産業では、虎の子のHVが急速にPHVに取って代わられて命運が尽きるだろう。 関連の材料、製造装置、自動運転システム、さらには、自動車の周縁にある空飛ぶクルマやモノレールといった産業でも、すでに大きな遅れにつながった。 軍事技術の分野でも深刻な遅れにつながりそうだ。 とてつもなく広くしかも長期的な視野でEV化を進めてきた中国と、既存大企業の「既得権優先」で、しかも、「電気で走れる自動車」の「ものづくり」をすれば良いという近視眼的視野狭窄の産業政策に終始してきた日本。 日本の産業、経済の沈没は当然の結果である。
古賀茂明