「歌詞忘れてるようじゃ無理か」面接官・菊池風磨の厳しいツッコミが話題…オーディション番組「タイプロ」に学ぶ“理想の採用と人材育成”
いかに「カルチャーフィット」するメンバーを選ぶか
タイプロが先ほど挙げたような他のオーディション番組と異なる点は、新しいグループを立ち上げるのではなく、既存のグループに新たなメンバーを加えるためのオーディションだということである。 さらに、新メンバーを選ぶのは第三者としてのプロデューサーではなく、実際にそのグループの一員であるtimeleszのメンバー自身。つまり、候補者は「未来の仲間候補」といえる。 この「既存のメンバーが自ら新しい仲間を選ぶ」という構図が、タイプロをより興味深いものにしている。たとえば、現時点では「選ぶ側」の3人は、いずれは対等な関係を築かなければならない面々に対して、どこまで厳しい態度をとってよいか躊躇する。「選ぶ側」「選ばれる側」の上下関係が、オーディション後もプロデューサーとメンバーという形で続いていく企画ではあまり見られない構図である。 また、すでに日本のトップアイドルとして活動しているtimeleszにはこれまでの活動の蓄積があり、同時に所属事務所の伝統も受け継いでいる。新たなメンバーには単なるスキルの高さだけでなく、そういった文脈にどれだけ合致するかも求められる。この判断基準は、企業が「カルチャーフィット」を重視して採用を行う際の感覚に近い。 ピカピカの経歴やスキルを持つ候補者を採用したにもかかわらず、「社風」に合わないことが原因でパフォーマンスが上がらず、結果的に組織力を低下させてしまう。ビジネスの現場でもしばしば起こりうる問題だ。timeleszの3人がオーディションで行っているのは、まさにこのリスクと向き合いながらの意思決定である。今のtimeleszのスタイルを維持し、さらに新しい風を吹き込むためにはどのような人材が適しているのか? そんな問いが、常に審査の根底にある。 3次審査の冒頭で候補者に課せられたのは「Can do! Can go!」の全員でのダンスだった。timeleszの面々が「あの時(ジュニア時代)を思い出す」「我々の原点」と口々に語った通り、この曲を踊るのは候補者を絞り込む審査であると同時に伝統の継承でもある。グループとして維持すべき「らしさ」を違和感なく表現できる資質が候補者にあるかはこの先の審査でもチェックポイントになるはずであり、企業風土を壊さないための採用活動と重ねて観察すると発見が多いのではないか。 付け加えると、3次審査に顔を出したSUPER EIGHTの大倉忠義の存在も見逃せない。事務所の先輩であり、また自身もグループのプロデュースも手掛ける大倉の登場で、候補者以上にtimeleszの3人にピリッとした空気が生まれたのは印象的だった。 管掌範囲は異なるが当該プロジェクトに影響力を持つ役員がふと現場視察に訪れたような緊張感に、エンタメを楽しんでいるはずなのに会社でのあれこれを思い出して肝を冷やした視聴者もいたのではないか。大倉が見ているのも、候補者のスキルというよりは、timeleszが背負う大きな歴史にこれから関わっていく存在としてふさわしいかという点だろう。大倉が審査に加わることで、現場メンバー以外の視点も織り込みながらカルチャーフィットを確認する体制が強化されていると言える。
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