「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・柏木⑨ こんなことになるなら…未亡人の娘思う母の後悔
大将も、すぐには涙を抑えることができない。 「亡き督の君は不思議なほど老成していらした方でしたが、こういう運命だったからでしょうか、この二、三年、ひどく思い沈んでいて、なんとなく心細く見受けられたので、『あまりにも世間の道理を知りすぎて、思慮深くなると、人は悟りすぎてしまう。そうなると心も素直ではなくなって、かえってその人らしさも消えてしまうものだ』と、私の至らぬ考えながら、始終いさめていたので、私のことを思慮の浅い者だとお思いだったようです。いえ、そんなことよりも、お言葉通り人一倍悲しんでいらっしゃる宮のお心の内が、畏れ多いことですが、まことにおいたわしく思われます」と、やさしくねんごろになぐさめ、しばらくの時を過ごしてから帰っていく。
次の話を読む:11月3日14時配信予定 *小見出しなどはWeb掲載のために加えたものです
角田 光代 :小説家