元五輪2連覇・内柴正人のプロデビュー決定報道を巡る賛否と違和感
ネットの声の中にも「性犯罪者がどの面下げてと思う一方で 罪を償ってこれから一生懸命に生きようとしている人に非難をあびせるのもどうか」「彼が犯した罪は罰せられるべきものである。しかし、社会的な地位も金銭も失い、刑にも服した以上、社会に復帰するために努力すら否定されるのは違うと思う」というものもあった。 服役中に何度も面会し、柔術での更生、再生の道を薦めたのが、「REAL」の代表で中国レスリング&柔道協会柔術委員会委員長の山田重孝氏だった。内柴は、山田氏のもとで柔術を学び、2017年にはアマチュアの柔術大会に出場して優勝しているが、その後、山田氏の尽力もあってキルギスの柔道界で指導を始めることになった。 プロデビュープラン発表の際、仕掛け人の山田氏は海外出張中で不在だったが、代わりにメディアに応対した小林氏も、内柴のプロデビューに問題が残っていることは把握していた。 「今回の出場に、色々と(反対意見は)あると思います。皆さんに大手をふって“がんばれよ!よくでてきた!”と言われる状況じゃないことは重々わかっています」 その上で「内柴は、現在、キルギスでヘッドコーチを務めています。2度五輪で金メダルをとった人間だけに今回の問題の社会的影響が大きかったことはわかっていますが、前向きに歩いてもらいたい。彼の地元、九州で、我々が用意したステージで前に向かっていただきたい、と(出場を)依頼した。彼も“ぜひ出場したい”ということで試合が決まりました」と、本格的に社会復帰するための手段の一つとしてプロデビューの舞台を用意したことを説明していた。 だが、ひとつ違和感が残った。小林氏は、タブレットに送られてきた内柴のコメントを読み上げたが、それは以下のような内容だった。 「山田さんにサポートしてもらい、キルギスでの仕事が生まれました。キルギスにいる日本の皆さん、日本にいるキルギスの皆さんとも出会いました。キルギスで生活する中で格闘技にも出会い、格闘技から柔道に専念する選手にも出会いました。(プロデビュー戦の)ルールはわかりません。日々、生活する中で広がったトレーニング種目(柔術)に合うものであれば、地元の大会で体を使ってやってみたいと思います。あくまでも練習で経験したものの中からルールは決めて欲しいのですが、すべて師匠である山田さんに託したいと思います」 そこには一切、犯した事件に対する反省や謝罪の言葉がなかった。社会を騒がせ、2つの金メダル獲得まで世話になった柔道関係者に多大な迷惑をかけ、何より被害者女性を深く傷つけることになった事件に関する謝罪や反省の言葉がなかったのである。 確かに日本の法律上も、社会的にも禊は済んだ。しかし、メディアへの露出があり“人に見てもらってなんぼ”のプロ格闘家としての再出発を決断したのであれば、たとえ、それが“賛否歓迎”のプロ興行であっても決して忘れてはならない手順があるだろう。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)