中学受験でやる気が出る志望校と出ない志望校とは?
「合格の見込み」の捉え方は成功体験に左右される
こういったとき、本人が「まだチャンスはある」と思えるかどうかは、自分が努力して目標を達成したという経験をどれくらい積んできたかで決まります。今までの成功体験を通じて、「やれば成功するし、やらなければ失敗する」と思えるようになるかどうかが重要です。 これを教育心理学の専門用語では、「行為と結果の随伴性の認知」と言います。随伴性の認知がない=「成功するか失敗するかは自分の努力とは無関係に、才能や運によって生じると思っている」状態です。そんな状態ではやる気を持って取り組めそうにはありませんよね。 さらに、随伴性の認知がある、つまり「努力すれば成功するはずだ」という認識があっても、「その努力を自分がやり抜くことができる」と思っていなければやはりやる気は出ないでしょう。これはバンデューラという心理学者が提案した、「結果期待」と「効力期待」という考え方です。 結果期待とは、自分がある行動をとれば良い結果が得られるだろうという期待のことで、随伴性の認知にあたります。一方、自分はそのような行動を実際にとれるだろうという期待が効力期待です。 例えば、「受験本番までの半年間、毎日8時間勉強すればここから逆転合格できるに違いない」という結果期待を持っていても、「自分が1日8時間も勉強することはできないだろう」と思っていたら、それは効力期待が低い状態です。こういう状態ではやる気は出ないということです。 つまり志望校は、「これをやれば合格がつかめるだろう」という成功の見通し・勉強計画が立てられると同時に、「これなら自分でもできそうだ」という気持ちになれる学校を選ぶ必要があるということですね。
「合格の見込み」と「志望校の魅力」のバランスが良い志望校を探そう
あらためてまとめですが、期待も価値も主観の問題ですから、「合格率20%」という判定でも、本人が50%と思っていれば50%、0%と思っていれば0%です。そして、価値(魅力)100でも期待が20だったら、やる気指数は2000です。 一方、価値(魅力)60で期待が60だったら、やる気指数は3600です。また、価値(魅力)20で期待が100だったら、やる気指数は2000です。 つまり、目標は高すぎても低すぎても良くないということですね。あなたのお子さんにとって、価値と期待がちょうど釣り合うバランスの良い目標はどこでしょうか? お子さんとぜひ本音で話し合ってみてくださいね。 くれぐれも、ご自身が大学受験をしたときの感覚を持ち込まないようにご注意ください。大学受験でE判定から逆転合格できたといった成功体験を持っていたりすると、お子さんの志望校選択でも同じように高い目標を設定しようとしてしまいがちです。 しかし、12歳の小学生と、18歳の高校生では、人生経験が全く違います。18歳の高校生であれば、それまでの間に積み重ねた成功体験で、「まだいける」と期待を持つこともできるかもしれません。 しかし、未熟な12歳の小学生ではそうはいかないのが普通です。お子さんの立場に立って、志望校を選ぶようにしてあげてくださいね。 最後に、今回お伝えした「期待・価値理論」や「結果期待と効力期待」といった話は、東京大学の教育心理学者市川伸一教授の著書『勉強法の科学』の第4章「やる気の出るとき、出ないとき」にまとめられています。お子さんの学力アップに効果的な勉強のコツややる気アップの秘訣がコンパクトにまとめられた良書ですので、興味がありましたら購入して読んでみてくださいね。
繁田和貴