『いちばんすきな花』4人はなぜ友達になれたのか 多部未華子、松下洸平らの深い演技
年齢も職業も出身地も違う4人の男女の友情とほんのりした恋、そして恋とも言えない「好き」を描く『いちばんすきな花』(フジテレビ系)。ゆくえ(多部未華子)、椿(松下洸平)、夜々(今田美桜)、紅葉(神尾楓珠)はどんどん仲良くなって、もうお互いになくてはならない4人となっているが、そもそもどうして彼らは友達になれたのだろうか。 【写真】『いちばんすきな花』食事をする多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠、田中麗奈 4人には「2人組が苦手」という共通点がある。でも社交性がないというわけではない。特に学生時代は自分をうまく抑えて「普通の人はきっとこうしてるんだ」と周りに合わせてきた。それはたとえば、交換ノートが回ってきたらその日に書いてすぐに回したという夜々の行動に表れている。でもそこまでしても周りとの“ズレ”が見えてきてしまう。だから「みんなは無理せずできてそうなことを自分はできない」という思いが強くなって、それが劣等感となってしまっていた。大人になればある程度は気にならなくはなるが、1度抱いてしまった負の感情は消えない。4人はガチガチに固まってしまった劣等感を抱えているという点でも似ていたのではないだろうか。だがそれがあったからこそお互いの気持ちを深く理解することができた。そうして深く分かり合える友達になれたのである。 4人を見ていると、実は「2人組が苦手」というのも思い込みで、単に「これまで分かり合える人と出会わなかっただけだったのではないか?」と思うことがある。ゆくえは夜々と、はしゃぎながらショッピングに行けるし、夜々は紅葉のバイト先に突撃してまで自分の“やらかしたこと”を話したがるし、紅葉と椿は互いに弱音を吐ける。そしてゆくえと椿はしっかりはっきり「タイプじゃない」と言い合える。きっと視聴者の中にも「2人組が苦手」という人はいるだろう。でも4人は、ちゃんと分かってくれる人ならば2人組でも大丈夫だということを教えてくれている。このように本作には自分のどこかにある大小さまざまな劣等感をほんの少しだけ溶かしてくれるような力があるような気がする。 発表時点では、うまく噛み合うのだろうかとやや不安だったキャスト陣も、次第に安心感のある緩い繋がりを楽しんでいるように見える。俳優には良くも悪くもイメージがあるものだが、本作のキャラクターは、それまでその俳優が積み上げてきたイメージを壊さずに新たな一面を見せるものになっているのではないだろうか。 椿を演じている松下洸平は、『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系)で、ある夜、妻から「実は2度目の人生である」と打ち明けられる夫・蓮を演じた。突拍子もない告白だが、蓮は「そうなんだ」とそれを信じた。松下はそんな優しい性格の人物を演じることが多い。もちろん椿も優しい。だが、これまでとは違って椿は、その優しさを発揮するまでの概念的でごちゃごちゃとした思考を隠すことができない。 ゆくえを演じている多部未華子は『これは経費で落ちません!』(NHK総合)で演じた森若さんに代表されるように、冷静で鋭い役がよく似合う。数学を「美しく希望がある」と表現するゆくえにもその鋭さの片鱗が見られるが、その能力は、学生時代に周囲の空気を読むために身についたものであることが感じられる。 夜々を演じる今田美桜は『トリリオンゲーム』(TBS系)で演じたキリカのように高慢で自信たっぷりな女性を嫌味なく演じられる俳優だ。でも夜々は、自分がかわいいと自覚していて、それを武器としている女と思われること、そして自分が生まれ持ったものを武器として使う側に振り切ることができないことを悩んでいる。 紅葉を演じる神尾楓珠は『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)で演じた大工の匠のように、あまり自分の感情を出さないクールな役を演じることが多い。紅葉も友人にはあまり自分の本心を言わないがそれをよしとしているわけではない。椿に「お腹痛いと言えないんです」と明かしたように、本当は辛い時に辛いと言えるようになりたいと思っているのだ。 人間というのは多面的で、誰と、どんな場面で接するか、意図するかどうかなどによって見せる顔が異なる。本作では、4人がさまざまなところで見せる顔や行動を繊細に、丁寧に、演じているためそれを深く実感することができる。もしかしたら彼らの演技によって、これまで自分には見えなかった違う一面を発見している視聴者もいるかもしれない。 本作を観ていると、大人になってから出来た友達が遊ぶ姿は、こんなにも子供っぽく、そして愛らしく見えるのだということにとても驚くとともに、自分にもこんな友達ができたらなという気持ちになる。それほど4人の関係は素敵なのだ。少しでも長く、4人には仲良くいてほしい。できればあの家で。
久保田ひかる