アジア回遊編~インド・ネパール(15)目をカッと見開き迫る老婆 誘われ「神様がいる」廃墟の屋上へ 恐怖を5000円で買うハメに
【実録・人間劇場】 「神様がいるからついてこい」 インド北部のバラナシにある火葬場で、人の死体が焼かれる様子を眺めていると、現地に住む15歳ほどの少年が話しかけてきた。少年の顔に笑顔はなく、いたって真顔だ。厳かな雰囲気を出そうとしているのか、感情を失っているのかわからないその表情が私の不安をあおる。しかし、好奇心が勝ってしまい、気付くと私は少年の後ろを歩いていた。 【写真】伝説の日本人宿「ホテル・パラゴン」 路地裏を5分も歩くと、火葬場の喧騒は聞こえなくなり、人気のない空き地にたどりついた。その端に廃虚のような建物が1棟建っている。神様はその建物の屋上にいるらしい。 建設途中なのか解体途中なのかもわからない建物の階段を無言で登っていく。確か5階建てくらいだっただろうか。屋上へ続く階段に老婆が1人座っていた。老婆は緑色のすり切れた布切れを身にまとっていた。見ようによっては俗世を捨てたサドゥー(修行者)にも思える。 「神様にお祈りするには3000ルピー払わないといけない」 少年は真顔でそう私に告げた。日本円にして約5000円。金額としては大したことはないが、インドの物価を考えると決して安くない金額である。当時(2017年)、まだ学生だった私は、1泊1000円もしないドミトリールームで南京虫におびえながら節約生活を送っていたのだ。気軽に払える額ではない。 「金が必要なんて聞いてない。払えない」 少年が通訳をしたのだろう。一言二言ボソボソとつぶやくと、目を閉じて下を向いていた老婆がカッと目を見開き、血相を変えて私に迫ってきた。ヒンドゥー語で何を言っているのかはわからなかったが、きっとこんなことを言っていた。言語なんてものを通り越し、気迫でその内容は伝わってきた。 「金を払わないとお前がどうなるかしらないぞ! この私がおまえを呪ってガンジス川に流してやるからな!」 今思えば、その場にいるのは少年と老婆と私の3人だけである。別の男がどこからともなく出てくる可能性は否めないが、逃げようと思えば十分に可能だったはずだ。 しかし、老婆の迫力に圧倒されてしまった私はそんな考えには及ばず、迷わず財布から3000ルピーを引っ張り出し、押し付けるように渡し、走ってその場を去った。