『デッドプール&ウルヴァリン』北米No.1 新作発表とともに“MCU復興”の狼煙となるか
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)が、久々にハリウッドを席巻した週末だった。“おしゃべりな傭兵”デッドプールがMCUに合流した話題作『デッドプール&ウルヴァリン』が、7月26日~28日の3日間で北米興行収入2億500万ドルを記録。『インサイド・ヘッド2』の1億5420万ドルを超え、2024年最高のスタートを切った。 【写真】“夢の共演”を果たしたデッドプールとウルヴァリン 『デッドプール』シリーズの特徴といえば、血みどろのアクションとFワード盛りだくさんのユーモア。ディズニー&マーベル・スタジオ製作でもそのテイストは継承され、本作はMCU史上初のR指定となった。業界ではR指定作品が3日間で2億ドルを突破することはありえないと見る向きもあり、事前の予測値は1億6000~7500万ドルにとどまったが、実際のところ、デッドプールに不可能はなかったのである。 本作は『デッドプール』(2016年)の1億3243万ドルを抜き、R指定映画の歴代オープニング記録を更新。北米オープニング成績としては『ブラックパンサー』(2018年)を上回り歴代第8位で、また7月公開作品の歴代記録も更新した。スーパーヒーロー映画としては『アベンジャーズ』(2012年)に次ぐ歴代第5位となっている。 デッドプール役のライアン・レイノルズ、『LOGAN/ローガン』(2016年)以来のウルヴァリン役復帰となったヒュー・ジャックマン、そして監督のショーン・レヴィにとっても、このオープニング成績は自己最高記録を更新。マーベル映画ファンのみならず、三者それぞれのファンが待望した一作として圧倒的な存在感を見せつけた。 また北米公開に先がけ、7月24日からは日本を含む海外51市場でも劇場公開が随時スタートしている。海外オープニング興収は2億3330万ドル、世界累計興収は早くも4億3830万ドルと、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022年)以来の滑り出しだ。 コロナ禍以降、マーベル・スタジオはMCUの展開に苦慮し、ビジネス・批評の両方で苦戦を強いられてきた。ディズニープラスでTVシリーズを同時展開するスタイルは、映画・テレビ双方のクオリティコントロールに問題を起こし、特に映画では興行的失敗とのWパンチを受けてきたのである。とりわけ『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023年)と『マーベルズ』(2023年)の失敗は手痛かった。 また、2023年には全米脚本家組合&全米映画俳優組合のWストライキも発生。MCUは全体計画の見直しを迫られ、『デッドプール&ウルヴァリン』も撮影中断を余儀なくされた。のちにマーベル・スタジオは本作の公開をやや繰り下げ、2024年唯一の新作映画とすることを決定したが、「新作映画を年に1本のみ」という決断は『アベンジャーズ』が公開された2012年以来である。しかしながらコロナ禍で学んだことは大きかったのだろう、ディズニー&マーベル・スタジオは「決して焦らない」ことで本作を成功につなげた。 調査によると、『デッドプール&ウルヴァリン』の北米週末動員数は1360万人で、『バービー』(2023年)以来の客足。Rotten Tomatoesでは批評家スコア80%に対し、観客スコアは97%。出口調査に基づくCinemaScoreでも「A」評価を得ており、観客の支持率は上々だ。製作費は2億ドル、宣伝費は1億ドルだから、この結果は「大勝利」と言うほかない。レヴィ監督のほか、全米劇場所有者協会とIMAX社も喜びのコメントを発表した。 興行面の懸念があるとすれば、スーパーヒーロー映画は公開直後にファンが押し寄せる傾向にあり、2週目以降の数字が大きく下がる可能性があること。本作にサプライズ要素が多いことはあらかじめ予想されていたため、その特徴が顕著に出ることも考えられる。性質上、大量の新規ファンを見込みやすい映画ではないため、どれだけのリピーターが劇場を再訪するかが今後の数字を左右するものと思われる。 ともあれ、『デッドプール&ウルヴァリン』がMCUにとって記念すべき一作となったことは確かだ。ディズニーによると、2008年『アイアンマン』で始動したMCUは、本作をもって全34作品の世界累計興収が300億ドルを突破。いまや最大の窮地を脱し、映画史上最大のフランチャイズとしての拡大を続ける姿勢である。 現にマーベル・スタジオは、このすさまじい勢いを借りて、さっそく次なる一手を繰り出した。そちらが今週末2つ目の大きな話題で、7月27日(現地時間)には、“世界最大のポップカルチャーの祭典”サンディエゴ・コミコンにて衝撃のサプライズが発表されたのだ。 それは、『アベンジャーズ』シリーズの第5作『アベンジャーズ:ドゥームズデイ(原題)』に、ヴィランのドクター・ドゥーム役として、かつてアイアンマン役を演じたロバート・ダウニー・Jr.が復帰すること。また、第5作と第6作『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ(原題)』に監督として『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)のアンソニー&ジョー・ルッソが再登板することも決定した(この新2部作は2026年5月、2027年5月に北米公開される)。 『アベンジャーズ/エンドゲーム』でMCUを去ったはずのダウニー・Jr.とルッソ兄弟が、なぜ今、このタイミングで戻ってきたのか。ルッソ兄弟の場合、『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ』の原案と目されるコミックのストーリーライン「シークレット・ウォーズ」の大ファンを公言し、映画化の際にはぜひ参加したいと(なかばリップサービス的に)口にしていたわけだが、気になるのはダウニー・Jr.の決断である。 アイアンマン役を演じたことでハリウッドのトップスターとして返り咲いたダウニー・Jr.は、MCUを離れたのち、クリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』(2023年)でアカデミー賞助演男優賞など多数の映画賞に輝き、パク・チャヌク監督のドラマシリーズ『シンパサイザー』(2024年)ではエミー賞にノミネートされた。MCU時代に叶わなかったキャリアの新章へ踏み出したにもかかわらず、再びコミック映画の世界に戻るのだから、よほど大きな決め手があったに違いない。そしておそらく、自らの復帰を正当化できると確信するだけのアイデアもそこにはあったのだろう。