「パワハラ&おねだりで失職」兵庫・斎藤前知事が本誌に語った「会見での涙」の理由
県議会での不信任決議案の可決により、9月30日に失職した兵庫県前知事の斎藤元彦氏。その日から出直し選挙へ向け、県内の駅前で辻立ちをおこなっている。10月11日はJR三ノ宮駅前に立ち、斎藤氏のまわりには黒山の人だかりができた。 【写真あり】黒メガネをかけた斎藤元彦前知事 「街頭で県民のみなさんからいただく声やお手紙などを見ると、本当に私の政策についてよく調べられていて、県立大学の無償化とか、高校のトイレをきれいにしたこととか、県職員のOBの65歳以上の天下りを廃止したこととか、しっかり見ていただいているんですね。そして、それらの将来性のある投資をぜひ続けていってほしいという声がものすごく強いんです。 とくに若い学生さんから声をかけられることが多く、私が知事になって以降、トイレのことや部活の道具が新しくなったことへのお礼を言ってくれる高校生もいます。私の就任前、たとえば令和2年度は県立高校1校あたりの予算額が全国46位と、ほぼ最下位レベルでした。やはり当時は人に投資する県政ではなかったので、そこにはもう戻したくないと思います。 インフラや箱ものではなく、やはり県民、とくに子どもたちに直接、届くような政治をやりたいです」 集まった人々を見渡すと、男性より女性、 高齢者よりも学生や子育て中の若い世代が多い印象だ。 9月11日の会見では、3年前の選挙で支援を受けた自民党会派から辞職を求められていることについて問われると、「申し訳ない」と涙を流した。初めて感情を見せた瞬間だった。 「あの涙は、県民のみなさんに申し訳ないという気持ちと、自分のふがいなさに対するものでした。それまで応援いただいていた自民党の方々から辞職申し入れがあったタイミングではありましたが、それだけでなく、県民局長が亡くなったことのつらさや、こういう事態を招いてしまったことへの自責の念から、県民に対して申し訳ないという気持ちになりました。それから、副知事をはじめ私のまわりにいた人がどんどん退職し、気がつけば私はひとりぼっちになっていました。そうしたことが積み重なり、あのときの感情があふれ出てしまったんです」 9月26日、出直し選挙への立候補を表明した際、全会一致での不信任決議について、「本当にそこまでいかないといけなかったのか」と反発。この発言も批判された。 「たしかに、ハラスメントや物品の受け取りにはきちんとしたルールが必要。また、公益通報についても、いまから振り返れば『こうすべきだった』という思いはあります。しかし、この問題をめぐっては法律の専門家の間で意見がわかれているのです。 私は問題に直面した当事者だからこそ、辞職ではなくて、やっぱり続けて改善していくことが正しい責任の取り方だと思います」 これまでどんなにたたかれても、県議全員に辞職を要求されても、県政継続で揺るがない姿勢は「鋼のメンタル」と呼ばれた。ところが斎藤氏自身は、「思い悩むこともあった」という。どんな日々を過ごしてきたのか。 「最近、『ちょっとやせてるよ』とよく言われます。私も人間ですから、報道のピーク時はつらかったですね。寝るときはすうっと眠れるのですが、いつもより早い時間に目がパッと覚めてしまう。その後、寝ようとしても、『これからどうなっていくんだろう』『今日は何を聞かれるのかな』などと考えてしまって、眠れなくなることがよくありました」 それでも、四面楚歌のつらさを忘れさせてくれる特効薬があったという。 「私、けっこう映画やアニメが好きなんです。いつも夜、寝る前にちょっと見ます。すると、そのまますうっと眠りに落ちるんです。それが気分転換になりました。よく見たのは『ロッキー』です。主人公が14ラウンドでボッコボコにされ、ダウンするけど立ち上がる。そして、家族に支えられて困難を乗り越える。そんなお気に入りのシーンを見て眠る、というのを繰り返していましたね。アニメは『葬送のフリーレン』の全話を2度見て、いま3順めに入っています。『キングダム』もお気に入りです。 あと、初の黒人メジャーリーガーであるジャッキー・ロビンソンを描いた映画『42~世界を変えた男~』にも勇気をもらいました。メジャーでは4月に『ジャッキー・ロビンソン・デー』というのがあって、選手はみんな、ロビンソンの背番号『42』をつけてプレーします。それは、まわりは全員、白人のなか、自分のやるべきことをやり続けるうちに応援してくれる人が増えていった結果なんです。精神的にしんどいときはこういうのを見て、気分を落ち着けていました」 斎藤氏は自身の境遇をロビンソンに重ね合わせていたのか。ロビンソンの功績を称えて「42」は全球団の永久欠番になったが、果たしてどんな審判が下るのか……。