「あれが本塁打にならないから、引退なんですよ」オリックスT-岡田、現役最後の打席で心に刻まれた“最初で最後”の応援歌
記憶に最も残る本塁打は…
2014年CSでの逆転3ラン、2021年ロッテとの天王山での逆転3ラン……ファンの中にはそれぞれ特別な”Tの本塁打”があるだろう。通算本塁打204本の中で、特に自身の記憶に残る本塁打を聞くと、少し困ったようにこう言った。 「この1本っていうのはなかなか難しいですね。ロッテ戦の逆転本塁打(2021年)もすごく記憶にありますし。あの本塁打からチームが優勝に近づいて、そういう意味では僕の中でもすごくいい1本ではある。でも1番って言われると……飛び抜けてっていうのはやっぱりないんですよ。 (2010年)ほっともっと(フィールド神戸)で打った代打満塁本塁打もすごく特別なものでしたし、(2014年)CSの1本もそうですし。1本1本覚えてるんです。1か月ぐらい出なかったときもありましたからね」 「ただ自分としては、とにかくその打席、その1球に対してどれだけ自分のいいスイングを出せるか。本当そこだけだと思うんで。それが結果、本塁打になったらいい。本塁打を打とうっていうよりは、この打席をどういう風に取り組むか。 どの打席でも本塁打が1番いいかもしれないけど、そのときそのときで最低限こうしないといけない打席っていうのはやっぱりある。本塁打も打ちたかったですけど、それよりも打点に僕は重点を置いてやっていました」 打点にこだわってきたという岡田だが、2021年は天王山での本塁打が「号砲」となり、自身初のリーグ優勝を経験する。そこからオリックスは怒涛の3連覇、黄金期を迎えた。しかし、チームが強くなるにつれ、岡田の出場機会は減っていく。 「試合に出れないっていうことは、やっぱり自分の調子が悪いということ。自分の成績と向き合わないといけないところで、なんとか成績が上がるように常に考えていました。二軍にいることも多くなっていたので、いつ呼ばれてもいいようにしっかりやっていこうって。とにかくそれだけでしたね」 初めて本塁打王に輝いた2010年は、チームは5位。自身はいつしかベテランとなり、ファームでひたすらバットを振る日々の中で、若手が一軍で華々しい活躍を見せていた。岡田はそうした時代の変化をどんな気持ちで受け入れていたのだろうか。現役時代は語ることのなかった複雑な胸中を明かした。 「やっぱりありましたよ、それこそ2022年、2023年っていうのは、やっぱりね。2021年の優勝はほんまに嬉しかったですけど。2022年、2023年の優勝が本当に僕が心から嬉しかったかって言われたら、『?』がつくところはありました」 2021年から3連覇とオリックスは常勝軍団への礎を築いていった。一方で、22歳の若さで本塁打王となり、暗黒時代のチームを支えてきたかつての主軸は30歳を過ぎて、若手の台頭もあり、チームの中でベテランの座に追いやられていく。 多くの重圧を背負って野球を続けてきたことで、いつしか岡田にとって野球は「つらくしんどいもの」になっていた。しかし、2019年初めて参加した海外リーグで思わぬ発見をすることになる。 #2へつづく 取材・文/西澤千央 撮影/集英社オンライン編集部 T-岡田●1988年2月9日。大阪府吹田市出身の元プロ野球選手。左投左打。2005年にオリックス・バファローズに入団。2009年シーズン終了後に「岡田貴弘」から「T-岡田」に登録名を変更すると、2010年に本塁打王を獲得。2024年シーズンを最後に現役引退。
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