すべてを忘れたわけではない。「認知症の人が見ている世界」からわかること
2025年、「5人に1人は認知症」に
長年認知症研究を続ける専門医の聖路加国際大学臨床教授・遠藤英俊さんは著書のまえがきでこう記している。 認知症は誰にとっても身近なものになっていくと予想されています 認知症は、長年、誤解され、偏見にさらされてきた病気といえます。 歴史をひも解くと、 認知症は、「痴呆(ちほう)」「呆け(ぼけ)」などと呼ばれていた時代には、認知症の人を身体拘束したり、拘束したり、閉じ込めたりすることがありました。現在ではそうした状態はかなり改善されたもの、依然として「認知症になったら何もわからなくなる」 「認知症になったら人生は終わり」と考える人は少なくありません。 「本人は何もわからなくなるから、らくなもの。苦しむのは家族だ」といわれることあります。 確かに、脳の働きが低下して認知症になると、記憶障害をはじめ、理解力や判断力が低下し、生活にさまざまな不便が生じます。しかし、認知症になったからといって、何もかもわからなくなるわけではありません。適切なサポートがあれば、病状が進んでも自立した生活を送ることができます。 最近は認知症の当事者の会が数多く発足し、認知症の人が講演や手記を通じ、自身の心の内や体験を発信するようになりました。そうした活動を通し、認知症の人が、将来への不安や孤独、周囲の無理解に苦しみながらも、豊かな感情を持って生きていることが知られるようになってきています。こうした当事者のみなさまからのメッセージは、極めて重要なものです。 現在、高齢化とともに日本の認知症の患者数は右肩上がりに増加しています。厚生労働省の発表によれば、その数は2025年には700万人にも達し、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になるといわれています。このまま増えていけば、2050年には患者数が1000万人を超えることが予想されています。 認知症は、誰にとっても身近なものになっていくと予想されています。 そうした中、政府は、2019年に認知症対策の指針をまとめた「認知症施策推進大綱」を発表しました。この指針では、認知症になっても、住み慣れた地域で安心して暮らせる「共生」と、認知症の発症や進行を遅らせる「予防」の2つを柱としています。 そこで現在、認知症の人を支えるサポーターの養成や高齢者の通いの場の設置のほか、病院・介護施設・生活支援サービスなどが緊密に連携して認知症の人の生活を支える「地域包括ケアシステム」が構築されつつあります。認知症であっても社会参加ができ、住み慣れた地域で生活できるしくみ作りが進められているのです。