教育DXの焦点 生成AIの登場で変わる大学のデータサイエンス・AI教育
AI(人工知能)時代に向けた人材不足が指摘され、全ての大学生が数理・データサイエンス・AIを学習することを国が目標として掲げたのは2020年。国の方針を受け、同年4月に数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアムが「数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)モデルカリキュラム ~データ思考の涵養~」(以下、モデルカリキュラム)を発表。この内容に沿った授業が全国の大学で始まった。 関連資料を見る ところが、それからわずか数年のうちに生成AIが登場し、誰も予想しないほど早くAI時代に突入した。生成AIを使いこなせる人の生産性は大きく上がり、そうでない人との差が広がりつつある。モデルカリキュラムは生成AIを想定しておらず、時代に合わなくなった。しかも、高等学校では2022年度から情報科の「情報Ⅰ」が共通必履修科目になった。情報Ⅰでは、データリテラシーやプログラミングの基本も学ぶため、モデルカリキュラムと重複する部分が生じた。 こうした変化に対応するため、同コンソーシアムはモデルカリキュラムを改訂し、2024年2月に公表した。主な変更点は生成AIに関するキーワードの追加。例えばリテラシーレベルのスキルセットには、「対話、コンテンツ生成、翻訳・要約・執筆支援、コーディング支援など生成AIの応用」「生成AIの活用(プロンプトエンジニアリング)」などが追加された。 オプションの項目では、これまでの「テキスト解析」が「自然言語処理」に、画像解析が「画像認識」になるなど、昨今の情勢に合わせた修正もある。ELSI(倫理的、法的、社会的課題)が明記された点も注目だ。これまでもAI社会原則やAIサービスの責任論は含まれていたが、より包括的な概念のELSIが追加された。ELSIは、AIの開発や活用の場面で重要性が高まり、世界各国で活発に議論されている。
大学の情報基礎教育を抜本的に見直す時期
今回の改訂を受け、モデルカリキュラムに準じた授業を実施している大学等では、授業内容の見直しが必要になるだろう。さらに踏み込めば、多くの大学において、情報基礎・ICTリテラシー教育を抜本的に見直す必要があるのではないか。「日経パソコン 教育とICT」は、かねて情報Ⅰ、数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)、大学における従来の情報基礎教育の内容が、それぞれ重複していることを指摘してきた。高校と大学、さらに大学内での授業に重複した領域があるということは、学生が適切かつ効率的に学ぶことの障害になり得る。 2024年度からは大学入学共通テストに「情報」が追加され、2025年度には高校で情報科を学んだ生徒たちが大学に入学する。それまでに、今回のモデルカリキュラム改訂に合わせた変更も含め、大学の情報関係基礎教育をAI時代にふさわしい内容にアップデートすべきだろう。 2024年6月6日~8日に東京、14日~15日に大阪で開かれる「New Education Expo 2024」では、セミナー「大学のAI・データサイエンス教育の進め方~生成AI対応も必須~」が実施される。文部科学省 高等教育局専門教育課 企画官の森次郎氏をはじめ、関西学院大学 副学長の巳波弘佳氏、同志社大学 高等研究教育院 所長の宿久洋氏が登壇し、AI・データサイエンス教育の最新事情と進め方を解説する。
文:江口 悦弘=日経パソコン