「できるだけ」自転車を利用するだけでも確実なメタボ改善効果が。糖をたくさん消費して血糖値を下げる自転車運動のメカニズム
自転車に乗る前に読む本 #3
通勤・通学・買い物を「自転車」にかえるだけ、ママチャリや電動アシスト付き自転車でも体は変わると、自転車が体へ与える有用性が注目されている。 【図】自転車運動後の糖代謝の比較
『自転車に乗る前に読む本』から、なぜ短時間の利用でも効果が出るのかを、一部抜粋・再構成して解説する。
自転車運動は、血糖値が下がりやすい
歩行と自転車の健康づくり効果を比較してみましょう。 まず糖代謝に対する効果です。前節までで見てきたように、血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度、つまり血糖値が高い状態は、糖尿病や動脈硬化を引き起こすリスクとなります。 有酸素性のエネルギー代謝では、糖質や脂質が酸素と反応して二酸化炭素と水ができます。安静時には糖質と脂質は同じくらいの比率で使われていますが、運動を始めてその強度が強くなるにつれて糖質が使われる比率が高くなります。 糖質と脂質がどれくらいの割合でエネルギー源として使われているかは、呼吸で排出された二酸化炭素と吸収された酸素の体積比で知ることができます。その比を「呼吸商」(RQ)と呼びます。 ブドウ糖(グルコース)1分子は、6分子の酸素(6O₂)と反応して、6分子の二酸化炭素(6CO₂)ができます。もし糖だけがエネルギー源ならば、呼吸商は二酸化炭素6分子と酸素6分子の比で1.0となります。 一方、脂質(脂肪酸)1分子は、23分子の酸素と反応して、16分子の二酸化炭素ができます。もし、脂質だけがエネルギー源ならば二酸化炭素16分子と酸素23分子の比で約0.7となります(図3-13)。 安静時の呼吸商は0.8程度です。運動を始めて呼吸商が1.0に近づくほど、糖がエネルギー源として使われる割合が高いことがわかります。 さて、同じ強度の運動をした場合に、歩行と自転車運動では、どちらの方が糖を使う割合が高くなるのでしょうか。 私たちは、糖尿病患者9名と健康な成人10名にご協力いただき、実験室で歩行と自転車運動を行ったときの呼吸商を測定しました。すると、糖尿病患者と健康な成人のどちらのグループも、いずれの運動強度でも、歩行より自転車運動の方が呼吸商の数値が高くなりました(図3-14)。 この結果は、同じ運動強度では、歩行よりも自転車運動の方が糖をたくさん消費して血糖値を下げる効果があることを示しています。 それを確かめるために、7名の成人男女に同じ心拍数になるように10分間の歩行と自転車運動を行っていただき、運動前後の血糖値を測定しました。すると歩行では、7名平均の血糖値が運動の前後で約12.0(mg/dL)分減少したのに対して、自転車運動では約16.4(mg/dL)分の減少が見られました。同じ強度の運動をしても、自転車運動は歩行よりも血糖値を下げる効果が大きいことが確かめられました(図3-15)。 同じ運動強度なのに、なぜ自転車運動は歩行よりも糖の消費が多くなり血糖値が下がったのでしょうか。40%の運動強度で歩行と自転車運動をしたときの糖代謝をPET(陽電子放射断層撮影)で捉えた画像が図3-16です。 白っぽいところほど糖代謝が活性化している領域です。歩行はあまり糖代謝が活発なところが見あたらないのに対して、自転車運動では太ももでたくさん糖が使われています。 歩行では使う筋肉が分散することで糖代謝がそれほど活性化しないのに対して、自転車運動では太ももの筋肉が集中的に使われることで糖代謝の活性化が進み、糖をたくさん消費して血糖値が下がるのだと考えられます。 余分な糖は脂肪として蓄積されます。運動によって糖をたくさん消費すれば、メタボリック・シンドローム予防で重要な内臓脂肪の蓄積を防ぐことにつながります。