寅さんとドラえもん“融合”目指した庶民の味方の映画「おいしい給食」綾部監督が語る
<情報最前線:エンタメ 映画> 2019年(令元)10月期に、独立系UHF局で第1期が放送された、市原隼人(37)主演の連続ドラマ「おいしい給食」。放送開始から4年半で連続ドラマが3期放送され、20年、22年には映画が公開。その最新作「おいしい給食 Road to イカメシ」が5月24日、公開された。綾部真弥監督(43)に、市原と二人三脚でシリーズを作り上げてきた、これまでの歩みと、作品に込めた日本映画界への挑戦の思いを聞いた。【村上幸将】 ◇ ◇ ◇ ■原作無しオリジナル -原作もないオリジナルの物語の主演に市原を起用し一から作り上げてきた 市原君と出会ったのは5年前。食もののドラマといえば、誰もが思い浮かべるのは「孤独のグルメ」ですが、松重豊さんが淡々と食べるように何も変えずにやっている方が長続きしている。当初、そういう考えもあったけれど、岩渕規プロデューサーから「面白いものを熱い人がやったら面白いんじゃないか」と言われ、なるほどと。 -市原の反応は 誰も知らないオリジナル作品、やるかな? と思ったけれど台本を読んだら「やりたい」と。1回、相談してリハーサルしたら今の甘利田のキャラクターを市原君から持ち込んできた。メチャクチャ面白く笑っちゃった。撮影前からすごいことが起こると思い、構成を変えていこうと一気に盛り出しました。 ■市原が作ったキャラ -甘利田は給食を前に踊ったり、ゴウやケンがメニューを“うまそげ”にアレンジすると倒立までして全身で悔しさ、驚きが入り交じった感情を表現するなど常人を超えた動きをする (市原が)撮影前日に電話してきて「メガネありでいこう」「食べる時は外そう」「芝居は突き抜けてやって良い」というところで腹をくくった。今どき、あれだけオーバーアクトなドラマはない。そこに映画的なリアリズムを残す。甘利田が変な行動をし過ぎても、市原君がやればしっとりした芝居さえ忘れなければ、変人になりすぎないギリギリを保てる。さじ加減を考えつつストッパーを外し、エンジン全開でやろうという話になりました。オーバーアクトなコメディーシーンに突然、ミニマムな芝居を持ってきたり緩急をつけることで、今までにない作品になるんじゃないかと挑戦した。 ■子どもたちと仲良く -市原も「正直言えばポップなものを作るのが苦手だった。大衆に見ていただけるポップな王道のエンターテインメントを作ることの大切さを学んだ」と「おいしい給食」との出会いで変わったと自認する 最初は、ちょっと照れて、嫌がっているところもあったんです。「もっと思い切り、ニヤッと笑って」と言ったら、珍しく「ポップになり過ぎちゃいませんか?」と言ってきた。season1の時は、ああいう役柄だからなれなれしく接しすぎるのも良くないからと子どもたちとも距離を置いていました。season2の時はコロナ禍の撮影で、あまり近づけなかったですけどスタッフ、子どもたちとみんな仲良く接していた。season3の時は、函館山に一緒に行こうよと言ったら、全員で写真を撮って楽しそうにしていますから。思い、中身、芯は変わっていないですけど、かなり柔らかくなった部分…優しさみたいなものを出していいんだ、そんなに突っ張らなくていいんだというのは、すごく変わったと思いますね。 ■給食と映画は似てる -給食に一直線の甘利田だが、そんな姿勢にけげんな目を向けながら真っすぐさ、熱さを理解していく女性教師と毎シリーズ、接近する。今回は、大原優乃(24)演じる英語教師・比留川愛とのシリーズ最接近の恋模様も見どころだ。そうしたテイストは「男はつらいよ」を思わせる 「寅さん」は、すごく意識しています。飽きない、面白い、思わず笑ったり、ホロリと泣いたり…そういう作品を目指す監督が今の日本映画界には少ない。そこに自分がチャレンジすることに意味があるのかなという思いで、やっていましたね。(身の回りの)小さい世界を描くことばかりの作品か、デカ過ぎるアクションものばかりじゃないですか? ■みんなが笑っている -連ドラから映画にステップアップする作品作りの裏に、イメージしている国民的なアニメがある 「ドラえもん」みたいにしたかったんです。テレビアニメは日常のささいな世界を描いていますが、映画になると緊迫感があったり話が大きくなる。いつものドラマが映画館では、少し大きな世界でやっている面白さも、あっていいと思う。あと、給食と映画は似ていて、みんなで見ると明らかに面白い。 -「寅さん」と「ドラえもん」の“融合”を目指した先に見ている景色がある 「おいしい給食」が、キネマ旬報ベスト・テンで1位を取るようなことはないし、カンヌ映画祭にも行くことは、もちろんないでしょう…でも、庶民の味方の映画が、あってもいいじゃないか。それを何で、映画評論家は否定するんだ? と思います。では、劇場に来て下さい…これだけ、みんなが笑っている映画、ありますか? と。でも、まだまだ知らない方がいると思う。少しでも知る方が増えるように仕掛け、ストーリー構成を考えられたら。数字よりも、いつまでも喜んでくれる庶民の味方の映画でありたい。 「劇場版 おいしい給食 Final Battle」公開時はコロナ禍で映画館がストップした。100席未満の席数のスクリーンで、舞台あいさつが行われたこともあった。それが、4月22日に東京・新宿ピカデリーの、580席あるスクリーン1で2回、行われた完成披露舞台あいさつのチケットは、即完売した。映画業界でも驚きを持って受け止められる快進撃を続ける「おいしい給食」は、国民的エンターテインメントを目指し歩み続ける。 ◆独立系UHF曲で19年スタート◆ 「おいしい給食」は、19年10月期にテレビ神奈川をはじめ地方の独立系UHF局で放送された、連続ドラマに端を発する。1980年代の中学校を舞台に、市原演じる頭の中に給食のことしかない給食絶対主義者の教師・甘利田幸男と給食好きの生徒が、日々の給食をいかにおいしく食べるかに腐心し、手を加えるなどするバトルを約5年にわたって描き続けてきた。市原にとって、主演作では初のシリーズ化作品となった。 season1では、甘利田が赴任した常節(とこぶし)中1年1組で、佐藤大志(17)演じる神野ゴウと毎日の給食を、どうおいしく“うまそげ”に食べるか、しのぎを削った。20年3月公開の初の映画「劇場版 おいしい給食 Final Battle」では、給食撤廃を進める教育委員会のストップに動いた甘利田が、給食のある中学校への異動処分を受けた。 21年10月期に放送された、2年ぶりの続編season2では、甘利田が黍名子(きびなご)中に異動した2年後に、ゴウも転校したことで、3年1組を舞台に2人の給食バトルが再燃。22年5月公開の2本目の映画「劇場版 おいしい給食 卒業」では、教育委員会が乗り出したメニュー改革に不穏なものを感じた甘利田が、給食を守るために立ち上がった結果、北海道函館市の中学校に広域転勤となり、ゴウも卒業した。 昨年10月9日のテレビ神奈川を皮切りに放送がスタートしたseason3は、甘利田が赴任した忍川(おしかわ)中1年1組が舞台。席替えでストーブの前に座ったことを機に、給食に執念を燃やし始めた田澤泰粋(15)演じる粒来ケンと、甘利田が給食をおいしく食べる、その一点に知恵を絞るバトルを展開。「おいしい給食 Road to イカメシ」では、町長選を前に給食完食のモデル校に選定され、揺れる忍川中と、そこに敢然と立ち向かう甘利田を描いた。 ◆「おいしい給食 Road to イカメシ」 1989年(平元)冬。中学教師・甘利田幸男(市原隼人)は北の地に降り立った。隠し持った真の目的は、イカメシを味わうこと。だが赴任から1年以上たつもイカメシが献立に登場することはない。相変わらず給食のために学校へ行き、食のライバル粒来ケン(田澤泰粋)と毎日ひそかにしのぎを削っている。一方、新米教師の比留川愛(大原優乃)は甘利田に憧れを抱き、近くにいたいと願っていた。ある日、忍川中学が給食完食のモデル校に選定される。忍川町では町長選挙を前にして、政治利用に使われようとしていた。不穏な空気を察知した甘利田は、おいしい給食を守るために立ち上がる。そんな中、イカメシとの頂上決戦の幕が上がろうとしていた。